はじめに:女系天皇の意味は十分に理解されているのか
皇位継承をめぐる議論では、「女性天皇」と「女系天皇」という言葉がしばしば並べて語られます。
しかし、この2つは似ているようで、意味は大きく異なります。
特に「女系天皇」の理解が足りないまま、ほとんど「女性天皇」と同一視していることから起きる「事実とは異なる主張」が散見されます。
世論調査の結果は非常に危ういものと言える
実際、NHK放送文化研究所が令和元年(2019)に行った皇室に関する意識調査では、「女系天皇」の意味について、「あまり知らない」「全く知らない」と答えた人が合わせて過半数を占めました。その一方で👇
女系天皇を認めることには7割の人が賛成しています。
この結果は、皇位継承の議論において、前提となる言葉の意味が十分に共有されないまま、賛否だけが問われている現状を示しているように思われます。
新時代の皇室観~「皇室に関する意識調査」から~(世論調査部 荒牧 央)
2019年9月28日・29日の2日間、全国18歳以上の男女を対象に、固定・携帯RDDの電話調査を実施。対象2790人、回答1539人、回答率55.2%。
⚪︎女性天皇について
「賛成」74%、「反対」12%
⚪︎女系天皇の意味を知っているかについて
「よく知っている」6%
「ある程度知っている」35%
「あまり知らない」37%
「全く知らない」15%
つまり「知っている」41%、「知らない」52%
⚪︎女系天皇を認めることについて
「賛成」71%、「反対」13%
さらに知識別に見ると、「あまり知らない」層でも75%、「全く知らない」層でも69%が賛成
そこで本記事では、入門編として、まず「女性天皇」と「女系天皇」の違いを整理します。
1. まず結論
「女性天皇」と「女系天皇」はまったく別の概念です。
過去の歴史上に女性天皇は存在しましたが、いずれも男系であり、「女系天皇」の先例ではありません。
『日本書紀』などに伝わる皇室系図によっても明らかにされており、また令和においてご歴代の天皇は全126代となりますが、現在の政府の公式見解においても、古来例外なく男系により継承されてきたとしています。
⭐️参考 政府の公式見解 安倍晋三内閣総理大臣の発言
「安定的な皇位の継承を維持することは、国家の基本に関わる極めて重要な問題です。男系継承が古来例外なく維持されてきたことの重みなどを踏まえながら、慎重かつ丁寧に検討を行う必要があります。 また、女性皇族の婚姻等による皇族数の減少等については、皇族方の御年齢からしても先延ばしすることはできない重要な課題であると認識しています。」
第200回国会 参議院 本会議 第2号 令和元年10月8日(国会会議録検索システム)
2. 女性天皇とは何か
これについては、文字通り「性別が女性の天皇」です。
日本史上においては、10代・8名の女性天皇がおられました。「10代なのに8名」というのは、1人で2度天皇に即位した方が2名おられるためです(これを「重祚」といいます)。
表 歴代女性天皇をかんたんに紹介
| 時代 | 女性天皇 | 父 | 母 | 男系の根拠 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 飛鳥時代 | 推古天皇 | 欽明天皇 | 蘇我堅塩媛 | 欽明天皇の女子 | 初の女性天皇 |
| 皇極天皇 | 茅渟王 | 吉備姫王 | 父が敏達天皇の孫 | のちに斉明天皇として重祚 | |
| 持統天皇 | 天智天皇 | 蘇我遠智娘 | 天智天皇の女子 | 天武天皇の皇后 | |
| 奈良時代 | 元明天皇 | 天智天皇 | 蘇我姪娘 | 天智天皇の女子 | 文武天皇の母 |
| 元正天皇 | 草壁皇子 | 元明天皇 | 父・草壁皇子が天武天皇の子 | 元明天皇の皇女 | |
| 孝謙天皇 | 聖武天皇 | 光明皇后(藤原氏) | 聖武天皇の女子 | のちに称徳天皇として重祚 | |
| 江戸時代 | 明正天皇 | 後水尾天皇 | 徳川和子 | 後水尾天皇の女子 | 奈良時代以来859年振りの女性天皇 |
| 後桜町天皇 | 桜町天皇 | 二条舎子 | 桜町天皇の女子 | 現時点で最後の女性天皇 |
3. 女系天皇とは何か
ここが今回の入門編の核となる部分です。
「女系」という文言から女性天皇と似た概念と思われがちですが、全く別のものと考えるべきです。
「女性天皇」には、単なる天皇本人の性別以外の意味はありません。
男系・女系の定義
女系天皇は法律などによる定義はありません。
ただ、令和3年(2021)の皇室典範の改正に関わる有識者会議は、
男系を「父方のみをたどることによって天皇と血統がつながること」と説明し、
女系については、「男系以外、すなわち母方を通じてしか天皇とつながらない血統関係を含むもの」
と説明しています。
⭐️参考 「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議 報告(内閣官房,PDF)
歴代はすべて男系の天皇
このように整理されているところですが、本人が父方ではなく、母方を通じてしか天皇にたどりつかない「女系天皇」は歴代において存在せず、天皇は例外なくすべて「父方をたどることによって天皇と血統がつながる」存在です。
また「男系」は父親の系譜をたどるので「父系」とも言い換えられます。
反対に「女系」は、父方ではなく母方を通じて血統をたどる考え方です。
歴代女性天皇もすべて「男系」
前掲の表を確認すると、歴代の女性天皇の父親はいずれも「天皇か、天皇の子か、天皇の孫」です。そのため、すべて男系であることがわかります。
ただし、ここで注意すべき点があります。それは、
⚠️「母を天皇に持つ天皇」は存在するということです。
奈良時代に在位した女帝・元正天皇は、母親が元明天皇であるため、「母方をたどって天皇につながっている」ことになります。しかし、元正天皇は父親が草壁皇子(天武天皇の子)であるため、やはり男系の天皇ということになります。
先に挙げた女系の定義は「男系以外、すなわち母方を通じてしか天皇とつながらない血統関係を含むもの」なので、父方ともつながる元正天皇は女系天皇ではないということになります。

この点をもって「過去に女系天皇は実在した」と主張されることがありますが、これは意図的なミスリードを含むことがあるので注意が必要です。
なお、天智天皇・天武天皇・文武天皇は、母親が天皇である男性天皇ですが、こちらも以上と同じ説明により女系天皇ではありません。
4. なぜ女系天皇が問題となるのか
女系天皇の問題は、「女性が天皇になってよいか」という問題ではありません。
問題は、皇位継承の原理を、これまでの男系継承から女系継承へ変更するかどうかにあります。
先に見てきた通り、歴史上でも天皇はすべて男系により継承されてきました。そして、
現在の皇室典範でも、皇位継承資格は「皇統に属する男系の男子」に限られています。
第一条 皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。
皇室典範 第1条
この、初代神武天皇から、第126代の今上天皇まで受け継がれてきた「皇位継承の原理」を現代で変えてもいいのかというのが問題になっているということです。
5. 現代では「女性」天皇も問題になる。
以上見てきたように、過去に女性天皇は存在しました。
その点では「歴史に整合する」と言うこともできるでしょう。
しかし、現代において女性天皇を制度化すると、次の問題が必ず出てきます。
女性天皇は結婚できるのか?
天皇になった後に結婚した女性天皇は歴史上例がありません。しかし、現代において、制度上当然の前提として生涯未婚を求めることは、極めて難しいでしょう。
女性天皇の子に皇位継承資格を認めるのか?
女性天皇の配偶者が、父方で皇統につながらない一般国民である場合、その子は父方では皇統につながりません。
その子に皇位継承資格を認めるなら、皇位は母方を通じて継承されることになります。
これが女系継承です。
女性天皇を認めるだけなら、ただちに女系天皇を認めることにはなりません。
しかし、女性天皇の子にも皇位継承資格を認めるなら、それは女系天皇の容認につながります。現代で、生涯未婚を強いることは社会通念上、極めて難しいと言わざるを得ません。
まとめ:女性天皇と女系天皇は分けて考える必要がある
つまり、女性天皇を認めるだけなら、ただちに女系天皇を認めることにはなりません。
しかし、女性天皇の子にも皇位継承資格を認めるなら、それは女系天皇の容認につながります。
このため、現代における女性天皇論は、単に「過去に女性天皇がいたかどうか」だけでは判断できません。
結婚、配偶者の身分、子の身分、そしてその子の皇位継承資格をどう扱うのかまで含めて考える必要があります。
皇位継承について考えるためには、まず「天皇本人の性別」と「皇統の系統」を分けて理解する必要があります。
「女性天皇」と「女系天皇」を混同しないことが、皇位継承問題を考える第一歩になるのです。


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