今回は、憲法と皇室典範に規定されている摂政について解説します。
摂政の歴史は長く、時代によりその意味や位置付けが異なるため、今回は現行の憲法と、7月24日に公布された改正皇室典範の摂政に範囲を限定して見ていきます。
1 摂政は天皇に代わって「国事行為を行う」
憲法第五条
皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行ふ。この場合には、前条第一項の規定を準用する。
憲法5条には摂政の職掌が書かれています。これによると、摂政は「国事行為」を行うこととあります。
また、第4条1項により、摂政は天皇と同じく国事行為のみを行い、国政についての権利能力(権能)を有しないこととされています。
国事行為の内容については憲法7条に規定されています。
第七条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 衆議院を解散すること。
四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
五 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
七 栄典を授与すること。
八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
九 外国の大使及び公使を接受すること。
十 儀式を行ふこと。
「天皇の名で」とは
たとえば法律を公布する場合、「摂政が法律を公布する」という国事行為が生じるのではなく、「天皇による法律の公布を、天皇の名のもとで摂政が代わって行う」という形になります。
つまり、あくまでも摂政は国事行為の「代行者」であるということです。
摂政自身が新たに象徴となるわけでも、皇位を一時的に取得するわけでもありません。
2 摂政が置かれるとき
皇室典範には、どのような場合に摂政を置くのかが規定されています。
第十六条 天皇が成年に達しないときは、摂政を置く。
② 天皇が、精神若しくは身体の重患又は重大な事故により、国事に関する行為をみずからすることができないときは、皇室会議の議により、摂政を置く。
まず、天皇が成年に達しないとき、つまり、18歳未満であるときです。
次に、「精神若しくは身体の重患」は、病気による心身の重い障害や、交通事故による怪我などといった理由により国事行為を行えない場合を言います。
そして、「重大な事故」は、「精神若しくは身体の重患」以外の事情によるもので重大なものをいい、この点については国会で以下のような具体例が示されています。
天皇の所在が分からなくなった場合
昭和39年(1964)の国会審議で、宮内庁長官は「天皇の御所在がわからなくなった」場合が、重大な事故に含まれ得ると答弁しています。
第46回国会 衆議院 内閣委員会 第9号 昭和39年3月13日(国会会議録検索システム)
天皇の失踪、戦時中に捕虜となった場合
昭和47年(1972)の国会審議では、宮内庁長官が「解釈的には、天皇の失踪あるいは戦時中の捕虜」が考えられると答弁しています。
第68回国会 衆議院 内閣委員会 第6号 昭和47年3月30日(国会会議録検索システム)
摂政の前例
現憲法下では摂政が置かれた例はありません。
最後の摂政となっているのは、大正10年(1921)11月25日に就任した、当時の皇太子裕仁親王(後の昭和天皇)です。大正天皇の御病気により摂政となられました。その後、大正15年(1926)12月25日に大正天皇が崩御し、皇位を継承するまで、約5年間にわたって務められました。
「国事行為の臨時代行」は摂政ではない
憲法第4条2項には次のようにあります。
憲法第四条第二項 天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。
天皇は摂政を置く場合以外にも、国事行為を委任することができます。
これは「国事行為の臨時代行」といい、摂政とは区別されます。
具体的には、「国事行為の臨時代行に関する法律(e-Gov法令検索)」により
天皇に、
重患に至らない程度の精神もしくは身体の疾患 または、
重大とは言えない程度の「事故」があるときとされています。
この「事故」は、日常語の「事故」よりかなり広く、病気以外の事情によって、天皇が通常どおり国事行為を行うことに支障がある場合を意味します。
例えば、「外国への御旅行」が最も代表的な例で、他に政府は「国内の離島に滞在中、台風などによって帰京できなくなった場合」を挙げています。
3 摂政の就任資格と順序
第十七条 摂政は、左の順序により、成年に達した皇族が、これに就任する。
一 皇太子又は皇太孫
二 親王及び王(第三十八条第四項に規定する養子皇族男子(第七号において「養子皇族男子」という。)を除く。)
三 皇后
四 皇太后
五 太皇太后
六 内親王及び女王
七 養子皇族男子
こちらの条項は、令和8年(2026)7月24日公布の改正皇室典範に対応しています。
「養子皇族男子」についての解説記事はこちら
摂政の資格は、成年皇族であることです。皇位と違い、男女は関係なく就任することができます。
摂政の変更・摂政就任順序の変更
第十八条 摂政又は摂政となる順位にあたる者に、精神若しくは身体の重患があり、又は重大な事故があるときは、皇室会議の議により、前条に定める順序に従つて、摂政又は摂政となる順序を変えることができる。
摂政本人や、摂政となる順位にあたる皇族が、
精神若しくは身体の重患 または
重大な事故 があるときは、皇室会議の議決によって摂政を変更したり、順序を変更したりすることができます。
摂政変更後は、原則として元に戻さない
第十九条 摂政となる順位にあたる者が、成年に達しないため、又は前条の故障があるために、他の皇族が、摂政となつたときは、先順位にあたつていた皇族が、成年に達し、又は故障がなくなつたときでも、皇太子又は皇太孫に対する場合を除いては、摂政の任を譲ることがない。
摂政就任順序が変更された状態で、摂政が就任した場合、
本来の就任順序の上位にあった皇族が、後に成年したり、心身の重患や重大な事故から回復したとしても、現に摂政となっている皇族は、上位にあたる皇族に摂政の任を譲ることはありません。
ただし、上位にあたる皇族が皇太子または皇太孫であった場合は、その任を譲ることとなります。
4 摂政の終了
第二十条 第十六条第二項の故障がなくなつたときは、皇室会議の議により、摂政を廃する。
天皇に「精神若しくは身体の重患又は重大な事故」がなくなった時は、皇室会議の議決により、摂政を終了し、天皇が再び国事行為を行います。
5 摂政の訴追と訴追の権利
第二十一条 摂政は、その在任中、訴追されない。但し、これがため、訴追の権利は、害されない。
「訴追の権利は、害されない。」というのは、「摂政が訴追する権利」ではなく、「摂政を訴追する側の権利」という意味です。
摂政就任中は、訴追されることがありません。
ただし、摂政は一時的な職であるため、摂政退任後はその皇族を訴追する権利が認められる、という趣旨の条文です。

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