1. はじめに:養子案は「誰が養親になるのか」が問われる
令和8年(2026)6月10日の、皇室典範改正に関する「立法府の総意」では、皇族数確保の方策として旧宮家系の皇統に属する男系男子を皇族の養子とする方策を法制化すべきと政府に求めています。
しかし、この案には大きな課題があります。
それは、誰が養親になるのかという問題です。
「皇族が養子を迎える」といっても、皇室全体が抽象的に養子を迎えるわけではありません。実際には、誰か特定の皇族が養親となり、養子となった人物がどの宮家に入るのかを決めなければならないのです。
2. 男性皇族を養親とするなら、受け皿はかなり限られる
現在の皇室は、天皇皇后両陛下、上皇上皇后両陛下、秋篠宮家、常陸宮家、三笠宮寬仁親王妃家、三笠宮家、高円宮家などで構成されています。

このうち、旧宮家男系男子を養子に迎える「養親」として自然に想定しやすいのは、やはり男性皇族でしょう。しかし、現実に男性皇族を養親とする場合、候補は極めて限られます。
皇嗣殿下・悠仁親王殿下(秋篠宮家)
秋篠宮皇嗣殿下と悠仁親王殿下は現在の皇位継承の本流そのものであり、旧宮家男子を養子として迎える受け皿とするのは、制度趣旨から見てもかなり不自然で危ういです。
追記:6月24日産経新聞の報道によると、政府の提出した皇室典範改正要綱では「養親の範囲は親王、親王妃、内親王、王、王妃、女王を列挙し、皇嗣と皇嗣妃を除いた。」とあり、国会正副議長も了承しています。
天皇陛下の養子という線はあるのか?
天皇皇后両陛下には男子がおられません。となると、陛下の養子として迎える線は有り得るのでしょうか。
結論から言うと、「まず有り得ません」。
養子案は令和3年の有識者会議により初めて正式に提案されたものですが、その時点ですでにこの案は「皇族が養子を迎える」ことと整理されています。皇室典範上、そもそも天皇は皇族ではなく、初めから養子は想定されていないものと考えて良いでしょう。
また、天皇陛下の養子となると、それは形式として「天皇の皇子」となるわけですから、将来的な皇位継承順位に影響を与えます。
「立法府の総意」では「養子となった子には皇位継承資格はない」とされていますが、その養子の子の代からは継承資格を有することとなる可能性が高いです。そうなった場合、皇室典範の規定上、その子は天皇陛下の皇孫となり、悠仁親王殿下の系統よりも皇位継承順位が上になることが予想されます。
これは、「立法府の総意」としての悠仁親王殿下までの皇位継承を「ゆるがせにしてはならない」大前提と真っ向から対立することとなります。
女性皇族
女性皇族が養親となるのは不可能ではありませんが、別の問題を生む可能性があります。(後述します)。
3. 常陸宮家という現実的受け皿

常陸宮正仁親王殿下は、昭和天皇の第2男子であり、上皇陛下の弟宮です。常陸宮家には御子がなく、宮家の継承という観点から見れば、旧宮家系男系男子を養子に迎える説明は比較的立てやすいと思います。
また、後継者のいない「家」を継ぐために養子を迎えるというのは、民間における養子のイメージとも合致し、最も自然な受け皿となり得るでしょう。
もちろん、常陸宮殿下ご本人に何かを背負わせるべきという話は好ましいものではありません。
しかし、現実問題として、制度設計が先送りされてきた結果、常陸宮家の存在が自然な形での養子案実現を大きく左右する状況になっています。
4. 養子案には時間の制約がある
ここで重要なのは、養子案は「いつでも使えるカード」ではないという点です。
常陸宮家を養子の受け皿とするなら、当然ながら、常陸宮家が存続している間に制度を整えなければなりません。常陸宮殿下は令和8年6月現在、すでに90歳とご高齢であり、常陸宮家を自然な形の受け皿とするには、時間的制約があることが大きな現実です。
⭐️参考 常陸宮さま、90歳に 宮邸で健やかに生活(時事ドットコムニュース|2025年11月28日報道)
常陸宮家以外を養親とするのであれば、今後考えられる道は大きく2つです。
①女性皇族を養親にすること
「実方系統」なら皇統上不自然はない
実方基準が明記されるなら、女性皇族が養親となる場合でも制度上の説明は可能になります。
令和8年6月に報じられた政府骨子案では、養子となった皇族男子本人は皇位継承資格を有しない一方、その子孫の地位については「実方の系統による」と整理される方向であるとされています。
この「実方」とは、養親となる現在の宮家ではなく、養子本人の生家、すなわち旧宮家の男系の血統を指すと考えられます。
そのため、養子やその子孫の皇統上の根拠は、養親側ではなく旧宮家側の血統に置かれることになります。
この整理を前提とすれば、そもそも「皇統に属する男系」である内親王・女王はもちろん、一般から皇室に入られて皇族となった親王妃が養親となる場合であっても、皇統上不自然なものとは言えず、皇室典範が天皇・皇族の養子を禁じた理由である「宗系紊乱」と正面から衝突することもありません。
ただし、皇統上の系統は実方による一方で、法的な親子関係は養親との間に成立することになるため、制度としては説明可能であるとしても、国民にとって直感的に分かりやすい制度であるとは言えず、政府による丁寧な説明が求められます。
女性皇族身分保持案との整合性
しかしこの場合、主に女性皇族の身分保持案と接近し、配偶者・子の扱いとの整合性が問題になります。
つまり、女性皇族の養子は皇族なのに、女性皇族の実子は皇族ではないのか?
という部分で整合性がとれなくなる可能性があり、新たな争点を生むことになる、ということです。
②養子という形ではなく、旧宮家系男子を法律によって直接皇族とすること
これはもはや「養子案」を断念し、有識者会議報告書における第3の案「法律によって直接皇族にする案」を実現する必要があります。しかし、その政治的・世論のハードルは極めて高いと言わざるを得ません。
つまり、養子案は形式上は穏当な案に見えますが、その穏当さは、常陸宮家という現実的な受け皿があってこそ成り立つ面があるのです。
5. 悠仁親王殿下のご誕生は「解決」ではなく「猶予」だった
凍結された皇位継承議論
平成18年(2006)、悠仁親王殿下がご誕生になったことで、皇位継承問題は一時的に沈静化しました。
当時、小泉内閣では、女性天皇・女系天皇を認める方向で皇室典範改正が検討されており、これが実現の方向に向かっていました。そこに、新しい世代の男子皇族として悠仁親王殿下がご誕生になり、皇室典範改正がその議論ごと凍結されることとなったのです。
この時期の皇位継承議論は、女性天皇と女系天皇の区別が十分に整理されないまま、安易な女系容認論へ流れていた可能性もありました。その意味では、平成18年当時には議論の「機が熟していなかった」と言うこともでき、これを凍結したこと自体は正しいと思われます。
その後は放置された皇位継承議論
しかし、問題はその後です。
悠仁親王殿下のご誕生は、安定的皇位継承の完成を意味したわけではありません。
それは、あくまで制度を立て直すための猶予が与えられただけです。
・安定的な皇位継承を本当に考えるのなら、悠仁親王殿下の次の世代をどうするのか。
・旧宮家系男子の皇籍取得をどう制度化するのか。
・女性皇族の身分保持を認めるなら、配偶者や子をどう扱うのか。
これらの問題は、平成18年の時点で冷静に考えればずっと残り続けていたわけです。
6. 放置された結果、「喫緊の課題」になった
平成18年に女性天皇・女系天皇容認へ進まなかったこと自体は、慎重な判断として理解できます。
しかし、その後に男系男子継承を維持するための制度設計が十分に進まなかったことは、大きな問題です。
議論が長く先送りにされ続けた結果、今になって養子案を実現しようとしても、男性皇族を養親とする自然な受け皿は今のところ常陸宮家にほぼ限られ、その常陸宮家にも時間的制約が生じています。
7. おわりに:ご長寿に制度を委ねてはならない
常陸宮殿下には、どうかご長寿であっていただきたい。
これは多くの国民が自然に抱く願いでしょう。
しかし同時に、ご高齢の宮様のご存命中に制度を整えられるかどうかが、養子案の実現可能性を左右してしまっている現状は、決して健全とは言えません。
本来、皇位継承や皇族数確保は、個々の皇族方のご年齢やご健康に依存して慌てて考えるべき問題ではありません。制度として、早くから余裕を持って備えるべき問題でした。
養子案は、男系男子継承を維持するうえで有力な方策ですが、自然な形で実現させることを考えれば「将来的にいつまでも実行できる案」ではありません。
そして、男性皇族を養親とする形を考えるなら、常陸宮家という受け皿が存続している現在こそが、ほぼ最後の機会なのかもしれません。





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