今回は、
『AERA DIGITAL』8月16日記事
「皇統譜(旧譜)が明かす『双系』・『女系』継承の事実 天壌無窮の神勅は『女系』継承」

👆こちらの記事に反論していきたいと思います。
お茶の水女子大学客員研究員[日本史]で、宮内庁書陵部に32年間勤務し、前・書陵部編修課長だった鹿内浩胤氏が書いた記事です。
0 鹿内氏の主張
- 旧皇統譜(旧譜)の神代の系譜・系図には、「万世一系の男系継承」を否定する「不都合な記載」が見られる
- 旧譜の伊弉諾神(イザナギ)、伊弉冉神(イザナミ)の二神から出た線が天照皇大神(アマテラス)へと繋がっており、これは「双系継承」を示している。
- アマテラスは女神なのだから、その子・正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊(オシホミミ)への継承は、母から子への女系継承である。
- 天皇統治の正統性の根拠である天壌無窮の神勅も、「女系」のつながりを前提としている。
- ただし、神武天皇以降の皇位継承は全て男系継承であることは認める。
- 明治政府が男系男子継承を法制化しながらも、この「双系」「女系」を含む神代の系譜を皇統譜として作成し、明治天皇に上進したことには重大な意味がある。 したがって、男系継承を「絶対的伝統」とする考え方は、旧譜そのものと整合しない。
明治の旧皇統譜
明治政府が皇室の系譜を整理して編纂したもので、神代から歴代天皇・皇族へ至る系譜を歴史的に整理したものです。
その後、大正15年(1926)に旧皇統譜令が定められ、皇統譜の登録や様式などについて体系的に整備されました。
現在の皇統譜
現行皇室典範26条と現行皇統譜令を法的根拠とする、天皇・皇族の身分事項を登録する公的な帳簿です。
大きく、
大統譜……天皇・皇后・太皇太后・皇太后
皇族譜……それ以外の親王・内親王・王・女王・親王妃など
このふたつに分かれています。
旧皇統譜令は廃止されましたが、これまであった皇統譜の内容については、現行皇統譜令第1条により「なお従前の例による」とされ、さらに同令附則2項には「従前の規定による皇統譜は、この政令によつて調製したものとみなす」とされたため、現行制度は大正期の皇統譜からの繋がりがあり、旧制度を継承していると言えます。
1 筆者(みちのく)の前提確認
『古事記』、『日本書紀』(記紀)に語られる神代は、異説が多く載せられ、さまざまな研究があります。また、記紀双方で内容が異なっているものもあります。
そのため、ここでは僕の記述での前提を示します。
- アマテラスは女神である。
- アマテラスは、イザナギの禊ではなく、イザナギ・イザナミの夫婦神によって生まれた神とする。
- オシホミミは、「アマテラスの子」である。
2 そもそも論 ーそもそも継承してないー
結論を言うと、神代の「イザナギ・イザナミ→アマテラス→オシホミミ→ニニギ」の間には双系継承も女系継承も存在しません。それ以前に「継承」そのものが存在しません。
アマテラスはイザナギ・イザナミから何を「継承」したのか
鹿内氏は、旧譜の系図をもとに
イザナギとイザナミそれぞれから出る実線がアマテラスに繋がることをもって「双系継承」としています。

旧譜の系図を見ると、確かにイザナギ・イザナミの2神から線が1本にまとまり、アマテラスに線が繋がっています。このような表記は旧譜内ではここでしか見られず、特別であると言えそうです。
鹿内氏は、「双系」について、記事内で何らの説明もしていませんが、双系とは一般的に「父と母の双方から系譜や出自などを認める仕組み」です。
旧譜を見れば、アマテラスへの繋がりは間違いなく両親であるイザナギ・イザナミ双方の存在が重視されているため、その点では「双系的」であると言えるでしょう。
ただし、ここで最も重要なのは、アマテラスは両親から「何を継承したのか」という点です。
アマテラスは両親から天上の統治を「授けられた」
『日本書紀』によると、
アマテラスを生んだ夫婦神イザナギ・イザナミは、「この子はこれまで生み出してきた神の中で最も霊異がある。この子をいつまでもこの国(地上)に留めていてはいけない。すぐに天に送って天上の統治を授けよう」
於是共生日神,號大日孁貴。〈大日孁貴,此云於保比屢咩能武智。孁,音力丁反。一書云:天照大神。一書云:天照大日孁尊。〉此子光華明彩,照徹於六合之內。故二神喜曰:「吾息雖多,未有若此靈異之兒。不宜久留此國,自當早送于天而授以天上之事。」是時天地相去未遠,故以天柱舉於天上也。
『日本書紀』巻第一、神代上 原文
とあります。これは果たして継承と言えるでしょうか?
継承と言うためには、もともとイザナギとイザナミが天上の統治を行っているという前提が必要であり、その上でこれをアマテラスに授けるというプロセスが必要になります。
しかし、そういったことを示す話は記紀には見られません。
よって、この旧譜の系図を見るに「双系的」とは言えますが、そもそも継承が行われておらず、「双系継承」という主張は成り立たないことになります。
そもそも起点は「世系第一」のアマテラス
もうひとつ、旧譜の系図で注目したいところがあります。
それはアマテラスに「世系第一」と書かれているところです。
「世系」は『精選版・日本国語大辞典』によると、
「① 祖先から代々受け継いだ系統。ちすじ。血統。 ② 系譜。系図。」
とあります。
つまり「世系第一」とは、アマテラスを天皇の祖神として、系統・系譜・系図の起点に位置していることを意味します。
そのため、旧譜の「イザナギ・イザナミ → アマテラス」の実線は、「両親からの繋がり」を表示したことは確かですが、これにより何かを「継承した」ことを意味するとは考えにくいです。
「2本の線がアマテラスに繋がるのは双系継承である」という主張は明らかに数段飛ばしの飛躍であると言わざるを得ません。
オシホミミはアマテラスから何を「継承」したのか
「アマテラスからアメノオシホミミへの継承が、母(女性)から子への「女系」継承であることは動かない。」
鹿内氏記事から引用
鹿内氏は旧譜を見て、「アマテラスは女神なのだから、その子のオシホミミへの継承は女系継承である」と主張しています。
ここで再び問題になるのは「何を継承したのか」です。
アマテラスはオシホミミに地上の統治を「命じた」
『日本書紀』によると、
地上の平定が終わった時、アマテラスは勅(命令)して「ならば、我が子(オシホミミ)を地上に降しましょう」と命じました。
葦原中國皆已平竟。時天照大神勅曰。若然者方當降吾兒矣。
『日本書紀』巻第二 神代下 原文
この通り、アマテラスはオシホミミに地上の統治を「命令」しました。
先述の通り「継承」と言うからには、アマテラスが保持する天上の主宰神たる地位・権限・資格等がオシホミミへ受け継がれたことが必要になります。そういった内容は『日本書紀』からは見えません。
はっきりしているのは、命令として我が子に地上の統治を「命令した」ことだけです。
従って、鹿内氏の「アマテラス→オシホミミ」の女系継承説は「そもそも継承の事実がない」ことから、根本的に誤りであると言えます。
3 天壌無窮の神勅は「女系継承」ではない
鹿内氏は、アマテラス→オシホミミは女系継承であることを根拠とし、オシホミミに下された「天壌無窮の神勅」もまた女系の繋がりを前提としていると主張しています。
この神勅(神の命令)は、歴代の天皇が地上を統治することの正統性の根拠となるものです。
まずここで鹿内氏の明確な誤りを指摘しておくと、天壌無窮の神勅はオシホミミではなく、アマテラスの孫である「ニニギ」に下されたものです。
『日本書紀』では、
アマテラスは、皇孫(ニニギ)に勅していわく、「地上は、わが子孫が君主となるべき地です。お行きなさい。皇孫のあなたが治めることで、宝祚(君主の位)は天地と共に永久に続き、窮まることはありません」。
と、命令を下しています。
因勅皇孫曰。葦原千五百秋之瑞穗國。是吾子孫可王之地也。宜爾皇孫就而治焉。行矣。寶祚之隆當與天壌無窮者矣。
『日本書紀』巻第二 神代下 原文
これが、代々の天皇による統治の正統性を証明する「天壌無窮の神勅」です。
これも先述した内容と同じなのですが、神勅は、天上を主宰するアマテラスがニニギに「地上の統治を命令」したものであり、アマテラスが以前から持っていた地位や資格をニニギに譲ったわけではありません。
よって天壌無窮の神勅も、そもそも継承そのものが発生していないことになります。
アマテラスの立場は「女神」ではなく「天上の司令神」
記紀によると、
アマテラスは、「特別に霊異のある日の神」であるから天上を主宰しているのであり、統治の根拠を性別に求めている記述は見当たりません。
そしてアマテラスは、子のオシホミミに、また孫のニニギに地上世界の統治を命じましたが、これはアマテラスが「天上の司令神」という立場からの命令であり、ここには親族関係ではありつつも「母」や「祖母」であることをもって行われたという構造は見出せません。
まとめ
旧譜から、「男系継承を『絶対的伝統』とする考え方」を否定することはできません。
鹿内氏はなぜ、「系図の線で繋がっている」だけで「継承」が存在すると思うのでしょうか。
これは僕の考えですが、旧譜の神代の系図が示していることは、大地と神々を創造した二神(イザナギ・イザナミ)と、これに連なる神々(アマテラスからニニギ)の親族関係を示したものであり、何らかの地位や資格などを「継承」したことを示すものではありません。
明治に作られた旧皇統譜の、
イザナギ・イザナミ → アマテラス → オシホミミ → ニニギ
の繋がりには、親族関係ははっきりありますが、そこには「双系継承」も「女系継承」もなく、そもそも「継承」を示す事実はありません。
もしも鹿内氏の言うように、系図の関係が「継承」を意味しているというのであれば、
「アマテラス→ニニギ」の間にも、統治の正統性を示した「天壌無窮の神勅」を根拠に「継承線」が必要なのではないでしょうか。
この点、旧譜ではアマテラスとニニギ間には祖母と孫という親族上の関係しか記されていません。
誰にでも両親や祖父母といった尊属がいますし、あるいは子孫がいます。生物的な意味で言えば、あらゆる人に系図は存在するのですから、線で繋がる=継承があったとするのは大きな飛躍です。
最後に、
そもそも、神代のつながりを、男系・女系・双系で分類すること自体がナンセンス
ではないかと思います。

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