【後編】「皇族数確保」で「安定的皇位継承」は実現するのか?【令和3年有識者会議が残した根本的な問題】

旧宮家

前編では主に、令和3年(2021)有識者会議で提示された3案のメリットについて見てきました。
後編では「女性皇族の身分保持案」と「旧宮家子孫の養子案」の問題点や指摘されている点について、さらに、この会議が抱えた「根本的問題」について見ていきます。

①女性皇族が婚姻後も身分を保持する案の問題点

1. 「女性宮家」化し、女系天皇への道が開かれる

これは、令和8年現在の議論においても最大の争点となっています。

女性宮家とはつまり、女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持するとともに、一般国民である夫や、その間に生まれた子もまた皇族とするというものです。言い換えれば、夫は婚姻とともに皇籍を取得するもので、その子も当然に皇族となるということです。
それがあたかも、男性皇族が婚姻した場合、独立し「宮家」を構成することの逆パターンのようなので「女性宮家」と呼ばれています。

⭐️補足 ただし、「女性宮家」は法律上の用語ではなく、正式な定義は無いため、単に「女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持する案」を指してこのように呼ぶ人もいます。

女性宮家は女系天皇につながる

これが最大の問題点で、有識者会議報告書は次のように指摘します。

この方策に反対する考え方もあります。その代表的なものは、女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持することが皇位継承資格を女系に拡大することにつながるのではないか、というものです。これは、女性皇族の婚姻後生まれてくる子(女性皇族の配偶者が皇統に属する男系の男子でない限り、父方で天皇と血統がつながらないので女系の子となる。)にもしも将来皇位継承を認めることとなれば、それは女系継承になってしまうという考えです。

有識者会議報告書 【5.皇族数の確保について】(2)皇族数確保の具体的方策 ① 内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持することとすること より

「女系」、または「女系天皇」とは、父方をたどって天皇に行き着くのではなく、母方を介してしか天皇の血統につながらない系統・天皇をいいます。これまでの歴代天皇は、女性天皇を含めても、すべて父方をたどれば天皇に行き着く「男系」であり、全126代の天皇のうち、女系天皇はひとつの例外もなく存在しません。

⭐️補足 女性天皇を母に持つ天皇もいます(第44代・元正天皇)。しかし、元正天皇は父親が草壁皇子という皇族、さらに祖父は天武天皇であるため、やはり男系の天皇です。

そのため、男系維持を重視する立場からは、女系天皇の誕生はこれまでの日本の歴史および伝統、天皇という地位の正統性とは相容れず、国家のアイデンティティが失われるといった趣旨の意見があります。

女性宮家は、一般国民の男性を皇族にし、その子もまた皇族として皇位継承資格が与えられた場合、史上初の女系天皇が誕生する可能性があるために、議論の最大の争点となっています。

女性皇族の夫や子の意思・自由をどうするのか

女性宮家が制度化されれば、女性皇族の夫は、一般国民から婚姻とともに皇族になります。これはつまり、その時点で一般国民として得られる権利や自由を制限されることになります。

もっとも、民間人が婚姻によって皇族となること自体は、現在でも皇后・親王妃などの例があるため単なる逆パターンのようにも思えます。しかし、上述のように「女系天皇に繋がる」問題がある時点で対称的ではなく、夫やその子に対して強い批判が向けられることは避けられず、これも大きな問題となります。

また、女性皇族の夫に連れ子がいる場合、その子の身分をどう扱うのかという問題も生じます。さらに、夫が外国人である場合、制度設計によっては、史上初めて外国人の皇族が誕生する可能性もあります。そのような制度が国民に受け入れられるのかという点も、慎重に考えなければなりません。

有識者会議は「女性宮家」を回避した

こういった問題もあり、有識者会議報告書は次のように整理しました。

(女性皇族の)配偶者と子は皇族という特別の身分を有せず、一般国民としての権利・義務を保持し続けるものとすることが考えられます。

有識者会議報告書 【5.皇族数の確保について】(2)皇族数確保の具体的方策 ① 内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持することとすること より

つまり、報告書においては「女性宮家」化の道を塞いでいるわけです。

次は、有識者会議報告書のとおり「女性皇族は身分を保持し、夫と子は一般国民のまま」、すなわち「女性宮家」化を避けた場合です。この場合においても問題点が存在します👇

2. 女性皇族本人の意思・自由をどうするのか

これも非常に重たい問題といえます。
婚姻というのは女性皇族にとり、「皇族の身分を離れ、一般国民としての自由を得る」ほぼ唯一の手段でもあるわけです。
これまで女性皇族は「婚姻により皇族の身分を離れる」という決まりのもとでこれまでの人生を生きてこられたのですから、生涯皇族として生きなければならないことを強いることになります。

3. 家族間で身分が異なることで起きうる問題

皇族費や警備などをどうするのか

配偶者の生活が安定しない状況において婚姻後も皇族の身分を保持する内親王・女王に支給される公費が配偶者の生活の糧にされることが考えられ、国民の理解が得られるかも問題となる。

有識者ヒアリング 問7 内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持することについてはどのように考えるか。その場合、配偶者や生まれてくる子を皇族とすることについてはどのように考えるか。八木秀次氏の回答より

夫と子を一般国民のままにする場合、皇族でない家族が女性皇族の生活基盤になる皇族費や警備などの影響を必然的に受けることとなります。しかし、法的には夫と子は一般国民であり続けるとなると、公私の境界がかなり曖昧になります

このように「身分保持案」は女性皇族の夫と子が皇族になってもならなくても、解決困難な問題に直面するかなり危うい制度といえます。

4. 一時凌ぎの策にすぎない

(夫を皇族としない)身分保持案は、今おられる女性皇族を維持するだけであり、現状維持にしかならないことが挙げられます。さらに言えば、既にご高齢の方もおられるため、人数のみを維持しても、いずれは公務を担当できない、または負担軽減を検討せざるを得ない状況になることも現実的に考えられます。


以上見てきたように、身分保持案は決して「穏当な案」ではなく、むしろ婚姻後の家族の扱いという根本問題を抱えた案であることが分かります。

② 旧宮家の男系男子の子孫を養子に迎える案の問題点

指摘1 憲法の禁じる「門地差別」に該当する

憲法14条では「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」とあります。

現在一般国民である旧宮家の子孫から特定の人を養子にし、皇族とすることはこの規定に反するのではないかという指摘です。

この点について、内閣法制局は国会で「皇位を世襲のものと規定する憲法2条は14条の特則であるため憲法問題は生じない」という趣旨の発言を行いました。その上で、皇統に属する男系男子を対象に養子制度を検討することも、法律で対象範囲を適切に定める限り、憲法14条との関係で問題が生じるものとは認識していない、としています。

⭐️参考 第212回国会 衆議院 内閣委員会 第5号 令和5年11月17日、木村陽一内閣法制局第一部長答弁

指摘2 養子となる人の意思・自由の問題

これは、女性宮家において女性皇族の夫が皇族となる場合と似た問題です。
一般国民として生まれ育った人が、養子をきっかけに皇族になる以上、それまで行使できていた権利や自由には一定の制約が及ぶことになります。

もっとも、養子案の場合は、単に「一般国民が皇族になる」というだけではありません。現在は一般国民である旧宮家の男系男子が、将来の安定的皇位継承という国家の目的のために、皇族に迎えられることになります。なので、身分保持案の夫よりも、制度的にはかなり重いものと言わざるを得ません。

指摘3 旧宮家は現皇室とは遠縁である

旧宮家は現在の皇室とは約600年前に分かれた遠縁にすぎない」という指摘があります。

たしかに、男系の血筋だけをたどると、現在の皇室と旧宮家の共通の祖は室町時代の伏見宮貞成さだふさ親王にまでさかのぼります。その意味で、現在の皇室から見てかなり遠い傍系であることは否定できません。

しかし、この批判を「旧宮家は現在の皇室とほとんど関係がない」という意味で用いるなら、それは正確ではありません。旧宮家は、昭和22年(1947)に皇籍離脱するまでは皇族であり、歴史的にも皇室と密接な関係を持ってきました。

室町時代前期から江戸時代末期にかけて、旧宮家の男子が天皇・上皇の養子または猶子となり、代々親王を世襲する「世襲親王家」がありました。目的は、天皇の直系が絶えた時に宮家から天皇を出すためです。

さらに比較的近い時代にも、皇室と旧宮家の間には婚姻関係が重ねられています。昭和天皇の皇后である香淳皇后は久邇宮くにのみや家出身であり、昭和天皇の長女である成子しげこ内親王は東久邇宮家に嫁いでいます
つまり、旧宮家は単なる「600年前に分かれた遠縁」ではなく、近代皇室とも姻戚関係を結んできた存在です。また、有識者会議ヒアリングでは、久邇家の当主が上皇陛下といとこ関係にあり、東久邇家の当主も今上陛下といとこ関係にある、という説明も出ています。

⭐️参考 「第4回 天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議に関する有識者会議 議事録」22頁 令和3年5月10日、百地章氏ヒアリング発言

また、毎年1月1日には「元皇族」が天皇皇后両陛下に新年祝賀のため拝謁していることが宮内庁により明らかにされています(「天皇ご一家のご日程 令和8年1月」宮内庁)。

従って、「600年前に分かれた」をもって旧宮家と皇室との歴史的・親族的関係まで否定するのは行き過ぎです。

指摘4 対象者の範囲をどうするのか

「旧宮家子孫の男系男子」といっても、誰を養子の対象にするのかが問題になります。

独身者だけなのか、既婚者も含めるのか。既婚者を含めるなら、その妻や子の身分をどうするのか。何歳までを対象にするのか。本人の素性や生活歴をどこまで公にするのかなどです。
有識者ヒアリングでも、対象を独身者に限るか、既婚者も含むか、後者の場合は配偶者・子の処遇が問題になると指摘されています。

⭐️参考 令和3年12月22日「有識者会議 報告」参考資料8「有識者ヒアリングで表明された意見について」67〜68頁 八木秀次氏発言

指摘5 国民からの理解が得られるのか

旧宮家の男系男子およびその子孫は、皇統には属していても、皇籍離脱からすでに80年以上が経過し、多くは一般国民として生活しています。そのため、国民がその方々を皇族として自然に受け入れられるのかという問題があり、これは有識者会議報告書自体が認めています。

要するに国民感情の問題ですが、ヒアリングにおいては👇

旧皇族の男系男子孫は、皇室と親戚関係にあり、いまなお親密な交際がなされている。そのような歴史的に由緒正しい若い方々を皇族としてお迎えするのであれば、国民感情としても受け入れやすく、理解も得られやすいのではないか。また「女性宮家」のように、皇室と全く無縁な民間人の成年男子が、女性皇族との婚姻を機に突然皇室に入ってくるよりもはるかに安心できる。

報告書 ヒアリング ①現行の皇室典範により皇族には認められていない養子縁組を可能とすることについて(百地章氏) 67頁

このように、「歴史的に由緒正しい若い方々をお迎えするのなら国民感情としても受け入れられやすい」という意見もあり、同時に、皇室とは無縁である女性皇族の夫も皇族にする「女性宮家」よりも安心できるとしています。これは非常に重要な着眼点だと思います。

また、最終報告書においては👇

養子となった後、現在の皇室の方々と共に様々な活動を担い、役割を果たしていかれることによって、皇族となられたことについての国民の理解と共感が徐々に形成されていくことも期待されます。

報告書 ② 皇族には認められていない養子縁組を可能とし、皇統に属する男系の男子を皇族とすること 14頁

このように、養子となった初めは受け入れられることは難しいとしても、その理解と共感が徐々に形成されていくことについて期待を向けています。 

③ 附帯決議が最終的に求めたのは「皇族数確保」ではなく「安定的な皇位継承」

ここまで、身分保持案と男系男子の養子案の問題点、指摘されている点について見てきました。

しかし、令和3年有識者会議報告書の最大の問題は、これらの案の是非以前に、附帯決議が最終的に求めていた「安定的な皇位継承を確保するための方策」を、実質的に棚上げした点にあります。

附帯決議が求めていた内容とは

そもそも有識者会議が発足された根拠は、平成29年(2017)の「退位特例法」の附帯決議です。内容は以下の通り(要約)。

  1. 安定的な皇位継承の確保・女性宮家の創設等について、法施行後速やかに検討し国会に報告すること。(有識者会議発足の根拠)
  2. 報告を受けた国会は「立法府の総意」として、安定的な皇位継承を確保するための方策を検討すること。
天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議(衆議院)

つまり最終目的は、単なる皇族数の維持ではなく、安定的皇位継承の確保だったはずです。

「機が熟していない」として悠仁親王殿下以後を先送りしてよかったのか

会議は、悠仁親王殿下の次の世代からの継承について議論することは「機が熟していない」、議論することで「かえって不安定化する」として、附帯決議が示す最終目的「安定的皇位継承」を正面から話し合いませんでした。その結果、議論の中心は「安定的皇位継承」そのものではなく、「皇族数確保」へと移っていきました。この点については、議論を「すり替えた」とも言え、厳しく見ざるを得ないと思います。

本来、安定的皇位継承を正面から考えるのであれば、第1に検討されるべきが養子案、第2に法律による直接皇族化案であったはずです。これらは少なくとも、現行の継承制度を前提にすれば将来的な皇位継承資格者の確保に接続し得るからです。

一方、身分保持案、とくに夫も皇族にする「女性宮家」案は「安定的皇位継承策」に寄与するどころか、女系継承という「不安定化」に繋がる案でもあります。安定的皇位継承について議論を避けた結果、不安定化に「寄与」してしまうこの案が第1案として報告されることになったと言えます。

ここに、令和3年有識者会議の根本的な問題があるのではないでしょうか。

まとめ 将来に火種を残した「女性皇族の身分保持案」

ただし擁護するならば、附帯決議の第1項に「女性宮家」の文言がある以上、会議としては検討せざるを得なかった現実があります。むしろ報告書は、夫と子を皇族としない形に整理することで、女系化への接続を抑制しようとしたともいえます。

この点において有識者会議には、根本的な限界があったともいえるでしょう。

しかしこの論点は、皇室典範改正が現実味を帯びる令和8年6月現在においてもいまだに最大の争点であり続けており、仮に報告書が提示するように「女性宮家化」が回避されたとしても、なお将来に渡り皇位継承「不安定化」の火種が残されることは間違いないでしょう。

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