皇室典範改正へ「立法府の総意」まとまる|女性皇族の配偶者と子の身分に言及なし

旧宮家

令和8年(2026)6月10日、皇族数の確保策をめぐり、衆参正副議長による「立法府の総意」が取りまとめられました。
今回の取りまとめでは、女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持する案と、旧宮家の男系男子を養子として皇族に迎える案について、いずれも「了」とされ、政府に対して法制化が求められることになりました。

⭐️立法府の総意とは?
政府ではなく、国会、すなわち衆議院・参議院の共通見解のことです。
皇位継承のような国の根幹に関わる問題について、特定の政党だけでなく、できる限り幅広い合意をもとに方針を定めようとする考え方です。

6月5日には衆参正副議長による「立法府の総意」取りまとめの内容が明らかになりましたが、10日に示された内容は、この取りまとめ案を大筋でそのままに「完成形」としたものとなりました。

その「取りまとめ案」については、衆議院公式サイトに掲載されている「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議に基づく政府における検討結果の報告を受けた立法府の対応』に関する衆参正副議長による議論のとりまとめ(案)」です。(PDFはこちら(衆議院))


まずはこれまでの流れについて。

資料名が非常に長いですが、これはそのまま皇室典範改正論議の「これまでの流れ」を示しています。以下、煩雑ではありますが重要なので簡潔にまとめます。

平成29年(2017)6月 附帯決議

「『天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議に基づく政府における検討結果の報告を受けた立法府の対応』に関する衆参正副議長による議論のとりまとめ(案)」

まず根本にあるのが平成29年の「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」です。この附帯決議では以下のことがまとめられました。

  1. 安定的な皇位継承の確保・女性宮家の創設等について、法施行後速やかに検討し国会に報告すること。→有識者会議発足の根拠
  2. 報告を受けた国会は「立法府の総意」として、安定的な皇位継承を確保するための方策を検討すること。→今回、衆参正副議長により示されたものがこれ
天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議(衆議院)

令和4年(2022)1月 政府の有識者会議報告

「『天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議に基づく政府における検討結果の報告を受けた立法府の対応』に関する衆参正副議長による議論のとりまとめ(案)」

次に「政府における検討結果の報告」です。
これは先の附帯決議の第1条が要求しているもので、令和3年中に政府有識者会議においてまとめられ、これが令和4年(2022)1月に国会に報告されました。

令和6年(2024)3月〜令和8年(2026)6月現在

「『天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議に基づく政府における検討結果の報告を受けた立法府の対応』に関する衆参正副議長による議論のとりまとめ(案)

有識者会議の報告に基づき、令和6年〜今年6月にかけて、国会における皇室典範改正議論が続けられてきました。そして6月5日に、国会における各党・各会派の議論を踏まえ、衆参正副議長により「立法府の総意」となる取りまとめ案が示され、続く6月10日に全体会議が行われ、この取りまとめ案がほぼそのまま「立法府の総意」となりました。

そこで本稿では、前掲の取りまとめ案(PDF)の内容をもとに、立法府の総意がどのように整理されたのかを見ていきます。


「立法府の総意」の基本構成

取りまとめ案は、大きく3つの項目から成り立っています。

1つ目は、「現時点において講ずべき皇族数確保の具体的方策について」です。

2つ目は、「法施行状況を踏まえての検討条項及び確認しておくべき事項」です。

3つ目は、「政府に対する要請」です。

つまり、今回の取りまとめ案は、皇族数確保のためにどの方策を法制化すべきかを示したうえで、法施行後の見直しや今後の検討事項、さらに政府への対応要請を整理したものといえます。


1. 皇族数確保の具体的方策について

前提 悠仁親王殿下までの継承を「ゆるがせにしてはならない」

「今上陛下から秋篠宮皇嗣殿下、次世代の悠仁親王殿下という皇位継承の流れをゆるがせにしてはならないことについては、立法府としてもこれを確認する。」

今回の皇族数確保策が、現在の皇位継承順位そのものを変更するものではないことを明確にする趣旨と考えられます。

そのうえで、取りまとめ案は、有識者会議報告書が示した第1案と第2案について、いずれも「了」としています。ここでいう第1案とは、女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持する案です。第2案とは、皇族には認められていない養子縁組を可能とし、皇統に属する男系男子を皇族とする案です(いわゆる「旧宮家養子案」)。

立法府は、この2案をもとに法制化することを政府に求めています。

第1案――女性皇族の婚姻後の身分保持

取りまとめ案は、この案について「皇室の歴史に整合的」であり、また公的活動の継続性の観点などに鑑みて、皇室典範を改正し、具体的な制度設計に進むべきだとしています。

ただし、取りまとめ案は、現在の女性皇族方が、婚姻後は皇籍を離脱するという現行制度の下で人生を歩んでこられたことにも配慮しています。

そのため、制度改正にあたっては、皇族の身分を保持するか否かについて、御本人の御意向を尊重するなど、一定の配慮をすべきだとしています。

ここで非常に重要な点が1つあります。
それは、「女性皇族の配偶者と子の身分」について一切触れていないことです。

国会はこれを「立法府の総意」とし、政府に法制化を求めることは大きな意味があります。
というのも政府は「有識者会議報告書」を通じ、女性皇族の配偶者と子は、「一般国民としての権利・義務を保持し続ける」旨を国会にすでに報告しています。

となれば、政府はこの「立法府の総意」をもとに「配偶者と子は皇族としない」方向に法制化する可能性が極めて高いです。

第2案――旧11宮家の男系男子子孫の養子案

取りまとめ案では、その対象について、昭和22年(1947)10月に皇籍を離脱した、「いわゆる旧11宮家の皇族男子の子孫である男系男子の方々」と範囲を明確にしています。

取りまとめ案は、象徴天皇制が国民の総意に基づくものであること、また我が国の歴史・伝統を踏まえることを求めています。そのうえで、慎重に制度設計すべき論点として、次のような点を挙げています。

①本人の意思を考慮した養子となり得る者の年齢
②皇族には養子が認められてこなかった趣旨を踏まえた、養親となり得る者の範囲
③具体的な手続等の要件。
養子となって皇族となられた方は、皇位継承資格を持たないこと。

このうち、特に注目されるのは、養子となった本人には皇位継承資格を持たせないと明記している点です。

また、取りまとめ案は、この措置について、養子が皇統の紊乱びんらんを防ぐ等のために皇室典範で認められてこなかったことを重く受け止めるとしています。そのため、皇族数確保の状況などを勘案し、必要があると認めるときは、一定年数ごとに見直すものとしています。

つまり、養子案については、法制化を求めつつも恒久的な制度ではなく、施行状況を見ながら見直しをし得る制度として位置づけています。


2. 法施行後の検討条項

取りまとめ案の2つ目の柱は、改正後の皇室典範等が施行された後の検討条項です。

まず、皇族数確保策を安定的に進めるため、改正後の皇室典範等の施行状況を踏まえて必要があると認められるときは、所要の措置が講じられる旨の検討条項を附則に設けることが適当だとしています。

これは、法改正を一度行って終わりにするのではなく、施行後の状況を見て、必要に応じて追加の対応を行う余地を残すものです。また、皇族の方々を取り巻く環境その他皇室の状況についても勘案し、必要があると認められるときは、適時適切な措置が講じられるものとすることを、附帯決議において確認するよう各党・各会派に要請しています。

さらに、改正後の皇室典範等による皇族数確保の状況などを踏まえ、安定的な皇位継承を確保するための方策について、引き続き検討することについても、附帯決議において確認するよう各党・各会派に要請しています。

ここから分かるのは、今回の「立法府の総意」が、あくまでも「現時点において講ずべき皇族数確保策」に関するものであり、安定的な皇位継承の問題については、今後も検討課題として残しているということです。


3. 政府への要請

取りまとめ案の最後では、政府に対する要請が示されています。

政府に対しては、この「立法府の総意」を厳粛に受け止め、直ちに法律案の立案に着手し、誠実に立案作業を行うことを求めています。

さらに、法律案の骨子が出来上がった段階で、事前に衆参正副議長に報告し、法律案の要綱が出来上がった段階で、各党・各会派に対し、全体会議の場で説明することを求めています。
そして、その確認を得たうえで、当該法律案を速やかに国会に提出することを強く求めています。

つまり、「立法府の総意」は単なる国会の意見表明ではありません。
政府に対して、直ちに具体的に法案作成に入ること、法案の骨子・要綱の段階で国会に説明すること、そして確認後に速やかに国会提出することまで求めています。
この点で、今回の立法府の総意は、これまでの議論を法制化へ進めるための重要な節目といえます。


「立法府の総意」の要点

今回の取りまとめ案の要点を整理すると、次のようになります。

第一に、悠仁親王殿下へと続く皇位継承の流れをゆるがせにしてはならないと確認していること。

第二に、女性皇族の婚姻後の身分保持案と、旧11宮家男系男子の養子案を、いずれも「了」とし、法制化を求めていること。

第三に、女性皇族の身分保持については、現在の内親王殿下・女王殿下の御意向を尊重するなど、一定の配慮を求め、配偶者と子の身分については触れなかったこと。

第四に、養子案については、対象を旧11宮家の皇族男子の子孫である男系男子に限定し、本人の意思、年齢、養親の範囲、手続要件、皇位継承資格の有無などについて、慎重な制度設計を求めていること。

第五に、養子となって皇族となられた方は、皇位継承資格を持たないこととされていること。

第六に、施行状況を踏まえた見直しや、安定的な皇位継承を確保するための方策について、今後も検討することが求められていること。

第七に、政府に対して、直ちに法案作成に着手し、速やかに国会へ提出するよう求めていること。


おわりに

今回の衆参正副議長による「立法府の総意」は、あくまで「皇族数確保策」についてのものであり「安定的皇位継承策」のものではありません。

しかし、女性皇族の配偶者と子の身分について明らかにせず「女性宮家」化を政府に要求しなかったことは高く評価できるものと思います。

ですが、旧11宮家男系男子を養子とする際の具体的要件、養子本人の子の世代における皇位継承資格など、法案化の段階で明確にされるべき論点はなお残されています。

今後は、この「立法府の総意」を衆参正副議長が高市総理に手渡し、政府がこれを受けて、どのような法律案を作成するのかが焦点となります。

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