今回は次の記事の反論を書いていきたいと思います。

8/20『プレジデントオンライン』記事
「それでも麻生太郎は無視し続けるのか…島田裕巳『欧州最後の”男子限定”陥落が示す”愛子天皇”の現実味』」
「皇室史に詳しい」と紹介される島田裕巳氏の記事です。
0 島田氏の主張
- リヒテンシュタイン公国のヨーゼフ・ヴェンツェル公子は「最も準備された人物」であり、皇室で言えば愛子内親王にあたる。日本もリヒテンシュタインや他のヨーロッパ王室にならい、「絶対的長子相続制」に移行するしかない。
- 皇室とヨーロッパ王室は近代以降密接な関係を結び、これをモデルとしてきた。そのため、日本も女性天皇や女系天皇に道を開くべき。
- 国民の支持を得られず、今上天皇と皇嗣も賛同しない旧宮家養子案は失敗が見込まれている。
- 今上天皇の「国民の理解」発言は、養子案に賛同を示さないことと受け止められている。
- 皇嗣も今上天皇のお言葉に共感を示している。皇位継承についても、女性を排除しないことを意味する発言をしている。
リヒテンシュタインについて
継承制度を「絶対長子相続」へ
2026年8月15日、リヒテンシュタイン侯爵家は公位の継承を、同家の家法改正により性別を問わない長子相続とすると発表しました。
これにより立憲君主制を敷く欧州各国(イギリス、オランダ、スウェーデン、デンマーク、ノルウェーなど)では、スペイン・モナコなど一部を除き、君主位継承の性別制限がなくなりました。

現在の公位継承の流れ
ハンス=アダム2世侯(現在のリヒテンシュタイン公)
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アロイス公世子(皇太子に相当)
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ヨーゼフ・ヴェンツェル公子(アロイス公世子の長男)
(「公子」は、侯爵家の男子を示す称号で、女子の場合には公女といいます)
リヒテンシュタインの君主の継承資格は、性別にかかわらず第一子となりました。
ただし、この制度が適用されるのは今後新たに生まれてくる子供たちであり、現在の継承順位を変更するものではありません。
反論1 リヒテンシュタインを参考にしても「愛子天皇」は不可能
■愛子さまに皇位継承資格を与える選択
保守派の手が尽きたとすれば、リヒテンシュタインのように絶対的長子相続制へ移行するしかない。女性天皇だけではなく、女系天皇への道を、将来に向けて開くのだ。
島田氏の記事から引用
島田氏は、養子制度は失敗が見込まれているのだから、皇室もリヒテンシュタインのように絶対的長子相続制に移行するしかない、と主張しています。
見出しを「■愛子さまに皇位継承資格を与える選択」としていることから考えると、島田氏はリヒテンシュタインにならい、長子相続として「愛子天皇」実現の意図を強く滲ませています。
しかし、リヒテンシュタインの改正が適用されるのは「今後新たに生まれてくる子供たち」です。
それは、現在の継承順位を「ゆるがせにしないため」です。
よって、この例を「愛子天皇」に持ち込むのは不適切です。
皇位継承の順序は、[今上→皇嗣殿下→悠仁親王殿下]とすでに決まっており、「愛子天皇」を実現させるためには皇嗣殿下の地位を動かす必要があります。
これにはとてつもなく高いハードルがあり、事実上「不可能」です。
その理由については、👇の記事で詳しく触れています。

反論2 欧州の君主制を参考することと、追随することは別問題
確かに、欧州王室は「男女同権」の観点から、継承の男子絶対・女子排除を改めています。
これについて、日本は参考にすることもあるかもしれません。
しかし、この事実をもって
日本だけ男系男子限定なのは時代遅れ → だから日本も変えるべきだ
となるのはあまりにも短絡的ではないでしょうか。
欧州王室はすでに何度も家系が変わっている
君主制をとる欧州各国では「王家が変わる」こと自体が珍しくありません。
例1 スウェーデン
スウェーデン王室の起源については正確なことは明らかになっておらず、王室自身は、「10世紀以来連続しており、1000年以上の歴史がある」としています。
ただし、1000年以上同一家系で続いてきたわけではなく、現在のベルナドッテ朝は、1810年にフランス人軍人ジャン=バティスト・ベルナドットが王位継承者として選ばれて以来のことです。
日本との大きな違いは、このベルナドット氏は、もともとスウェーデン王家と血統としての繋がりがなかったことです。候補者に選ばれた理由は、
・当時の王・カール13世に継承者がいなかったこと、
・ベルナドット氏が有能な軍人として評判が高かったこと、
・スウェーデン兵捕虜を厚遇して好感を持たれていたこと、
・当時ヨーロッパを支配していたナポレオンのフランスとの関係強化が期待されたこと、
などです。
つまり、スウェーデン王室は、「王朝交代が実際に起きており、その上で許容している」と言えます。
例2 イギリス
イギリス王家の王朝名はこれまで、
[テューダー朝→ ステュアート朝→ ハノーヴァー朝]などと変わっています。
欧州ではしばしば、
女王が即位する → 別王家の男性と結婚する → 次代から夫側の王朝とみなされる
また、
王や女王が即位する → 王位継承者が誕生しない → 別の家系から即位し王朝名が変わる
ということが起きました。
皇室と王室では歴史的背景が異なる
このように、欧州の王家は、王統の連続性と、父系血統の連続性は必ずしも同一視されないのであり、日本の皇統とはこの点が根本から違います。
日本でも、一時期に女性天皇はいました。
しかし女性天皇は、天皇に即位して以後に子をもうけた例はなく、
女性天皇が即位した次の代には、必ず同じ男系血統を持つ人物を後継者としました。
つまり、欧州王室と同じような「王朝交代」を歴史的、伝統的に許容していなかったのです。
こうした歴史的前提の違いを無視して「欧州王室にならえ」とするのはあまりにも物事を単純に考えすぎています。
日本ははるか昔から外国の思想、制度を取り入れてきた
島田氏は、次のように主張します。
麻生氏は、「日本とヨーロッパでは事情が違う」と考えるかもしれない。
だが、日本の皇室は、ヨーロッパの王室と密接な関係を結んできた。アジアにも王室はあるが、近代以降、ヨーロッパの王室を日本はそのモデルとしてきた。いまや、天皇や皇族がヨーロッパを訪問した際には、王位(皇位)継承をめぐる違いについて内外で報じられてもいる。ヨーロッパにおける変化は、決して日本と無関係ではないのだ。
これはまさに、(島田氏の脳内の)麻生氏が正しく、日本と欧州では事情が違います。
近代以降に欧州王室をモデルとしてきたとしても、その全てをコピーしたわけではありませんし、全コピーが一般的に好ましいものではないことは、言うまでもありません。
古代日本は隋・唐の律令、官制、都城制、衣服、暦、仏教文化などを猛烈な勢いで取り入れましたが、隋唐をコピーした国家になったわけではありません。
日本の国柄、慣習、環境に合うものを取り入れ、必要に応じて改変して取り入れたのです。
また中国の王朝は「易姓革命」により、建国・滅亡を数限りなく繰り返してきましたが、日本では他氏がとってかわり新たに天皇となった事例はなく、同一の王朝が途絶えたことはありません。そのため日本では「王朝」や「⚪︎⚪︎朝」という考え方がもともと薄いと言えます。
外から学ぶこと ≠ 外と同じになること であり、
世界的に制度が均質化する時代だからこそ、その国にしかない歴史的・伝統的な制度を維持する価値もあるのではないでしょうか。
反論3 天皇陛下・皇嗣殿下のお言葉から養子案の否定は読み取れない
天皇陛下のお言葉「言及控えたい」
島田氏は、6月11日の天皇陛下のお言葉から、「陛下は旧宮家養子案に否定的である」と推測しています。
「国民の皆さんの理解が得られるものとなることを望んでおります」と語った。この発言については、天皇が養子案に賛同していないものとも受け止められている。
しかし、陛下は「制度に関わる事項については、私から言及することは控えたい」と前置きしています(オランダ及びベルギーご訪問に際し(宮内庁))。
そうである以上、「国民の理解」が養子案という特定の制度の賛否を示したものであると考えるのは、陛下の意図に反するものであり、不適切です。
皇嗣殿下のお言葉「お話を控えたい」
さらに、島田氏は8月13日の皇嗣殿下のお言葉についても同様の推測をめぐらし、次のように主張しています。
「先般、天皇陛下が話されたことももっともだと、その通りだと私は思っています」と語り、天皇と同意見だということを表明した。しかも秋篠宮は、女性皇族の役割について聞かれた際に、「私は女性、男性の区別というのはないというふうに考えています」とも語った(朝日新聞8月13日付)。この発言は、皇位継承のことについても、女性を排除しないことに通じるものである。
陛下が「制度に関わる事項については、私から言及することは控えたい」としている以上、皇嗣殿下もまた「養子案」という特定制度について賛否を示していません。
また、皇嗣殿下ご自身が「ここでそのこと(皇室典範のこと)について何かお話しするというのは、制度に関わることでありますので控えたいと思います。」
とおっしゃっています(パラグアイご訪問に際し(宮内庁))。
従って、皇嗣殿下が養子案のほか、皇位継承について何らかの意思を示したという事実は存在しません。
まとめ 島田氏の論法はガバガバである
島田氏は記事の最後で、「愛子天皇」実現の希望を強く滲ませる文章を書いています。
しかし、現代のデジタル社会において、半導体の重要性は高まっている。この会議(第37回半導体物理国際会議)が日本で開かれるのは、2000年の大阪大会以来26年ぶりである。国際会議として重要であり、だからこそ、天皇家の長子である愛子内親王が出席し、挨拶したのだ。そこに、「天皇直系の長子」の重みがある。
(皇室典範の)改革を進めるならば、「天皇の第1子」に男女を問わず、皇位継承資格を与えられるようにすべきである。
括弧内青字は筆者の注記
このように、唐突に半導体に関わる国際会議の話題になり、重要な国際会議に愛子内親王殿下が出席したのは「天皇直系の長子」の重みがあるからだということです。
ところで、
今年(令和8年)の6月2日には、皇嗣殿下は京都で開催された「第22回国際内分泌学会議」開会式にご臨席され、おことばを述べられています。世界各国の研究者・医師が参加する国際会議で、日本開催は16年ぶりでした。(「第22回国際内分泌学会議」開会式ご臨席(宮内庁))
さらに、去年の10月20日には、殿下は京都で「第15回国際口蓋裂・頭蓋顔面異常学会国際会議」の開会式にご臨席し、会議関係者とも懇談されています。(「第15回国際口蓋裂・頭蓋顔面異常学会国際会議」開会式ご臨席(宮内庁))
このように、皇嗣殿下は長子ではありませんが、国際会議にご出席されています。
従って、愛子内親王殿下がご出席されたのは「直系長子だから」とは言えません。
島田氏はまるで、「重要な場にお出ましになることが皇位継承者の証」であるかのように言いますが、今年8月現在19歳で、9月に20歳となられる悠仁親王殿下は、8月7日に単独で広島市の平和記念公園を訪れ、原爆被害者への供花と拝礼を行っています。(秋篠宮家のご日程 令和8年(8月)(宮内庁))
こういった事実を考えれば、島田氏は、皇嗣殿下と悠仁親王殿下についても当然同じ物差しで評価しないと公平とは言えないのではないでしょうか。
「未来を志向する改革」は大切ですが、未来を考えるにはまず、無分別に外国に追従するのではなく、「過去はどうだったのか」、「昔から大切にされ受け継がれてきたものは何なのか」を振り返り、研究する必要があります。
「皇室史に詳しい」島田氏にこそ、その姿勢が問われるのではないでしょうか。
最後に、アロイス公世子が今回の絶対長子相続への変更を発表した直後に述べられたお言葉を紹介して終わりとします。
我が国、その企業、そして国民は、他国でその時々に行われていることや、「時代に合っている」と見なされているものを、ただ取り入れることで成功してきたのではありません。もちろん、私たちは注意深く観察し、そこから学んできました。しかし最後には、いつも自らに問いかけてきました。
本当に必要なものは何か。
何が我が国、その国家形態、その規模、そのアイデンティティ、そしてその社会に適しているのか。これらの問いを、今後も私たちの行動の指針としましょう。
原文
Unser Land, seine Unternehmen und seine Menschen waren nie einfach nur dadurch erfolgreich, dass sie übernommen haben, was anderswo gerade gemacht wurde oder als zeitgemäss galt. Natürlich haben wir aufmerksam beobachtet und gelernt. Aber am Ende haben wir uns immer gefragt:Was ist wirklich notwendig?
Was passt zu unserem Land, zu seiner Staatsform, zu seiner Grösse, zu seiner Identität und zu seiner Gesellschaft?
Lasst uns diese Fragen auch in Zukunft Leitlinien unseres Handelns sein.
ANSPRACHE SEINER DURCHLAUCHT ERBPRINZ ALOIS VON UND ZU LIECHTENSTEIN ANLÄSSLICH DES STAATSFEIERTAGES AM 15. AUGUST 2026
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