【反論】世論調査の結果は「国民の総意」なのか?【古賀茂明氏】

感想、反論

今回は次の記事の反論を書いていきたいと思います。

国民の合意がない「皇室典範改正」は高市首相から麻生氏への“賄賂”のようなもの 私利私欲のための改正は白紙に戻すべきだ 古賀茂明〈8月厳選スペシャル〉 | AERA DIGITAL(アエラデジタル)
AERA DIGITALで連載中の古賀茂明さんのコラム「政官財の罪と罰」から過去によく読まれた記事を再配信します(「AERA DIGITAL」に2026年7月1日に掲載されたものの再配信です。本文…

国民の合意がない「皇室典範改正」は高市首相から麻生氏への“賄賂”のようなもの 私利私欲のための改正は白紙に戻すべきだ 古賀茂明〈8月厳選スペシャル〉
この古賀茂明氏の記事は、『AERA DIGITAL』2026年7月1日掲載の記事が、8/25に再配信されたものです。

つまり、改正皇室典範の成立(7/17)以前に掲載された記事であることに留意が必要です。

古賀氏は、元経産省官僚で、現在は政治経済評論家・コラムニストとして活動する人物です。皇室史や皇室制度を専門とする研究者ではありませんが、近年は皇室典範改正や皇位継承問題についても発言しており、女性・女系天皇の容認を支持する立場です。

0 古賀氏の主な主張

  • 高市首相は意見の分かれる問題で反対を無視して政策を強行する「暴走」をしており、皇室典範改正はその典型である。
  • 世論調査では女性天皇への支持が極めて高く、女系天皇についても容認が多数なのに、立法府と政府の議論は女性・女系天皇を排除する方向で進んでおり、「国民の声」と正反対である。
  • したがって、憲法1条が天皇の地位を「日本国民の総意」に基づくとしていることに照らせば、現在の改正の進め方は憲法の趣旨に反する。
  • 今回の皇室典範改正議論は白紙に戻し、女性・女系天皇の容認を含めて「国民の総意」を得られる制度を最初から議論し直すべきである。

反論1 「強引に進められた」は本当なのか

古賀氏は、今回の皇室典範改正議論は、高市総理と麻生副総裁のもとで強引に行われたものであると主張しています。

時系列で検証

今回の皇室典範改正議論は、平成29年(2017)6月の「退位特例法」附帯決議を出発点としています。

これには、政府が「安定的皇位継承」と「女性宮家の創設」などについて検討することとされており、最終的に国会が、政府の報告を受けて「立法府の総意」を取りまとめることとしています。

天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議

一 政府は、安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等について、皇族方の御年齢からしても先延ばしすることはできない重要な課題であることに鑑み、本法施行後速やかに、皇族方の御事情等を踏まえ、全体として整合性が取れるよう検討を行い、その結果を、速やかに国会に報告すること。

二 一の報告を受けた場合においては、国会は、安定的な皇位継承を確保するための方策について、「立法府の総意」が取りまとめられるよう検討を行うものとすること。

三 政府は、本法施行に伴い元号を改める場合においては、改元に伴って国民生活に支障が生ずることがないようにするとともに、本法施行に関連するその他の各般の措置の実施に当たっては、広く国民の理解が得られるものとなるよう、万全の配慮を行うこと。

右決議する。

天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議(衆議院、参議院、PDF)

⚪︎令和3年(2021)3月~12月
有識者会議によりヒアリング・討議を全13回に分けて行い、12月22日に報告書が決定する(「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議(内閣官房,PDF))。

⚪︎令和4年(2022)1月
岸田総理が、有識者会議での検討結果を衆参正副議長に報告する。

⚪︎令和6年(2024)5月〜8月
衆参正副議長の下で全体会議及び各党各会派による協議が行われる。
9月には、岸田総理に対し、協議の中間報告及び議事録を手交する。

⚪︎令和7年(2025)1月〜4月
1月17日に日本保守党からの意見聴取を行う。
1月31日〜4月17日まで、4回に分けて衆参正副議長の下で全体会議が行われる。

この年は、意見対立によって取りまとめに至りませんでした。

⚪︎令和8年(2026)4月〜6月
前年に続き、5回にわたる全体会議が行われる。

6月10日 高市総理に対し、衆参正副議長による議論の取りまとめを「立法府の総意」として手交する。これを受け、政府は「皇室典範等の一部を改正する法律案要綱」を作成。

6月25日 政府の法律案要綱をもとに、立法府は最後の全体会議を行う。
これは、政府提示の要綱が取りまとめの内容に沿ったものであるか否かを判断するものです。

以上の流れはすべて、
天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議に基づく政府における検討結果の報告を受けた立法府の対応について(衆議院)
で議事録などとともに掲載されています。

皇室議論で「全会一致」は不可能

古賀氏は「暴走」「強行」「拙速」「強権的」といった強い言葉を繰り返します。

しかし、退位特例法の附帯決議から9年、政府報告から4年以上、立法府の全体会議だけでも2年以上の議論を経ているわけです。

各党各会派の意見も聴取され、政府は「立法府の総意」を受けて法案を作成し、その骨子・要綱についても再度立法府から確認を受けています。

では、この一連の過程のいったいどこが「強引」「拙速」だったのでしょうか?
令和7年には、国会の各党各会派の意見がまとまらず翌年に持ち越しとなっています。強引・拙速であるならば、なぜ令和7年時点で成立しなかったのでしょうか。

皇室制度、とくに皇位継承議論は、根本原理からして意見が割れるため、「全会一致」を目指したら事実上永久に何も決められません。

当然ながら、反対意見があるからといって物事が決められないということはなく、反対があるまま物事を進めることは必ずしも「強引」であるとは言えません。
古賀氏は「結論に賛成できない」ことと「手続が強引だった」ことを混同していないでしょうか。

最終的に、改正皇室典範の賛否は7/17の参議院本会議で、
賛成184 反対57 という結果でした。
今の時点で古賀氏に問いたいのは、この約4分の3が賛成という結果でも「強引」なのか、ということです。
もし強引であるなら、「どの程度まで賛成が広がれば十分」と考えるのでしょうか?


反論2 「国民の総意」を世論調査で測れるのか

古賀氏の論法を単純化すると、

世論調査では女性天皇・女系天皇容認が多数 → 今回の制度案はその世論に反する → 国民の総意に反する

という流れになっています。

世論調査の数字はうつろいやすい

世論調査の数字は、特定の時点で、特定の対象者に、特定の質問文と選択肢を示したときに得られた回答です。

皇位継承問題では特に設問の条件依存が大きく、
たとえば「女性天皇を認めることに賛成ですか
とだけ聞く場合と、
現在の皇室典範は皇位継承資格を男系男子に限っています。この規定を改め、女性皇族にも皇位継承資格を認めることに賛成ですか
では、聞いている内容自体は同じでも、回答者が考える内容が違ってくる可能性がある。

だから、皇位継承をテーマにした世論調査では特に、
回答者が何を理解したうえで賛否を答えているのかまで考えないといけません。

さらに数字が動く要因はかなり多く、

  • 女性天皇と女系天皇を別々に聞くか、一緒に説明するか
  • 男系男子継承の歴史を説明してから聞くか
  • 皇族数減少を説明してから聞くか
  • 愛子内親王殿下の名前を出すか
  • 悠仁親王殿下の存在を説明するか
  • 「容認」「賛成」「反対」「やむを得ない」など選択肢をどう置くか
  • 電話調査かネット調査か
  • 調査対象・回答率
  • 質問する順番

こういう条件の違いでも結果は上下します。

しかも同じ時期にA社で「賛成80%」、B社で「賛成60%」だったとしたら、同じ国民なのに「総意」の数が調査会社によって変わることになってしまいます。

この時点で、世論調査の数字を憲法1条の「国民の総意」と同一視するのは無理があると言わざるを得ません。


まとめ 「国民の総意」を軽く考えすぎではないか

「国民の総意」には明文の定義がなく、さまざまな解釈があるため、僕がここで古賀氏に「国民の総意とは」という正解を示すことはできません。

そのため、僕自身が「説得力があり、なおかつ魅力を感じる」解釈をまとめとして紹介します。

まず「国民」とは、今現在を生きている日本国民だけではなく、過去に生きていた国民、さらに将来生まれる国民までを含めた広い概念である、ということです。つまり、

過去の国民 これまでの日本国と天皇を形成し、これを代々受け継いできた人々

現在の国民 今、これらを受け継いでいる自分たち

未来の国民 これからの日本と天皇の地位を受け継いでいく、これから生まれてくる人々

を、すべて「日本国民」として含める考え方です。
このような考え方には実際に先例があります。平成29年(2017)の衆議院憲法審査会は、「国民」を「過去から現在に至るすべての国民」と捉える解釈が紹介されています。また、平成16年(2004)の参議院憲法調査会では、阪本是丸氏が「亡くなった人、将来の子孫」まで含めて「国民の総意」を考える見解を示しています。

特に天皇・皇室は、はるか過去→現在に渡って受け継がれてきたもので、これを現在→未来にバトンタッチしていくことが大切だと思います。
この点、「日本国民」の範囲を全時間軸で捉える解釈はとても説得力があると思います。

憲法も皇室典範も、法的にはもちろん改正することは可能です。しかし、「法的に変えられる」からと言って「これまでの歴史と将来の国民を無視して好きに変えてよい」わけではないでしょう。

少なくとも「国民の総意」とは、その時々の世論調査で得られた多数意見をそのまま当てはめて済むほど、軽い言葉ではないはずです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました