今回は『文春オンライン』8/29、池上彰氏の記事の反論を書いていきます。
池上彰氏は、元NHK記者のジャーナリスト。NHK時代には社会部で警視庁や宮内庁などを担当し、現在はテレビ朝日系『池上彰のニュースそうだったのか!!』などで、政治・社会問題を一般向けに解説しています。

「女性天皇」と「女系天皇」はどう違うのですか?――池上彰さんに聞く
と、題されているため用語解説記事のようなのですが、その解説がかなり雑であり、短い記事であるにもかかわらず誤解を生みやすい表現が多く見られました。
また記事の最後には、現在の継承制度が男子限定となっていることについて「男性優位の意識を持った人たちが、「伝統を守れ」と言っているのです。」と突然池上氏個人の思想を露わにしたところで記事が終わっています。
1 間違いだらけの池上解説
1 誤解を与えかねない「女系の女性天皇という区別」
池上氏発言
男系の女性天皇と女系の女性天皇という区別があるのです。
「女系の女性天皇」は歴代に存在しません。
歴代の皇位継承は例外なく男系で継承されてきました。
議論をするための架空の概念として「女系天皇」、「女系の女性天皇」、「女系の男性天皇」などとカテゴリーを作ることはあり得るとは思います。
ただし、「女系の女性天皇という区別がある」とそのまま解説するのは、あたかもこういった存在がいたかのような誤解を読者に与えかねないので非常によろしくないと思います。
2 継承資格を持つのは「天皇の息子」だけではない
池上氏発言
もともと皇室典範で皇位継承権があるのは「男系男子」だけと定められています。これは、男性の天皇の息子だけが皇位継承権を持つということです。
この説明は明確に間違っています。
皇室典範(第一条、第二条)によると皇位継承資格を持つのは、「皇統に属する男系の男子」であるため、男子皇族であれば全員が皇位継承資格を有しています(ただし、養子皇族男子は除く)。
したがって、「天皇の息子だけが皇位継承権を持つ」は誤りです。
天皇の弟・甥・従兄弟・遠い傍系男子でも皇位継承資格を持ちます。
池上氏の説明だと直系男子限定の制度であるかのように読めるため、これは非常によろしくないと思います。
3 「女系」の説明が意味不明
池上氏発言
これに対して女系とは、女性の皇族の子どものことを意味します。
ですので、女性の皇族から生まれた男子は「女系男子」になり、女子が生まれると「女系女子」ということになります。
「女系とは、女性皇族の子ども」とのことですが、これでは
皇后雅子さまの子どもである愛子内親王殿下は「女系女子」になってしまいます。
「女性の皇族から生まれた男子は『女系男子』」とのことですが、これでは
天皇陛下も秋篠宮殿下も悠仁親王殿下も全員女性の皇族から生まれてるので「女系男子」になってしまいます。
当たり前すぎることを書いて恐縮なのですが、人はみな両親から生まれます。
なので、「女性の皇族から生まれたから女系」は意味が分かりません。
もちろん、池上氏の言わんとしていることは何となく推測できますが、知識の少ない層に対して噛み砕いた説明をした結果とはいえ、これは流石に噛み砕きすぎで意味が分からないため、非常によろしくないと思います。
「男系」と「女系」政府の定義
政府は男系と女系について以下のように解説しています。
「男系」とは、父方のみをたどることによって天皇と血統がつながることとされています。
報告(内閣官房、PDF)
一方、「女系」とは、「男系」以外の天皇との血のつながり、すなわち母方を通じてしか天皇とつながらない血のつながりを含んだ血統のつながりのことをいいます。
男系は 父方のみをたどり天皇とつながる系統
女系は 男系以外。母方でしか天皇とつながらない系統
を言います。
そのため、愛子内親王殿下は父が天皇陛下なので男系です。
しかし、愛子内親王殿下がご結婚された場合、その結婚相手が男系男子でない限り、その子は父をたどっても天皇とつながらないため「女系」となります。
池上氏はそもそも「男系」の説明をしていないため、「女性皇族の子は女系」という意味の分からない解説になってしまっています。
2 男子限定ルールの支持者は「男性優位」の意識がある?
池上氏発言
男性優位の意識を持った人たちが、「伝統を守れ」と言っているのです。
池上氏は、まるで「伝統を守れ」と言っている人たちは全員男性優位の意識を持っているかのような物言いをしています。
1 男子限定ルールは、伝統を守るための合理的手段
皇位継承を男系男子に限定した理由は、126代もの間続いてきた男系継承の血統原理を守り、将来につないでいくために必要な合理的区別だからであり、男女間の能力の優劣で決められたものではありません。
過去に女性天皇が存在していたことがその証明であると言えるでしょう。
つまり、現在男子限定になっているのは「能力的な男性優位とは異なる別の理由」があるわけです。
2 男子限定ルールは性差が理由ではない
現在の皇室典範では女性天皇を認めていない。
確かにこの点をみれば制度上「男性優位」であることはその通りです。
しかし、「制度が男性優位」であることと、「その制度の支持者が男性優位の意識を持っている」ことは別です。
政府も、
「男系継承が古来例外なく維持されてきたことの重みなどを踏まえ、『皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。』と規定されているものと考えております。」
としています(第221回国会 議院運営委員会 第34号(令和8年7月10日(金曜日)))。
つまり、男子限定継承は「男性優位」というジェンダーの問題ではなく、男系継承の「伝統の重み」を踏まえたものであり、これを後代に繋いでいくための仕組みとして採用しているのだ、と言えます。
3 なぜ現代は「男系女性天皇」もだめなのか
男系の女性天皇がかつて存在したにもかかわらず、なぜ現代ではそれも認められていないのか?
これは最も重要な論点と言えるでしょう。
歴史上、女性天皇からその子へ女系で皇位が移った例はありません。
つまり、女性天皇が男系以外の夫との間に子をもうけた例はない、ということです。
| 女性天皇 | 婚姻歴 | 夫 | 夫の出自 | 即位時 |
|---|---|---|---|---|
| 推古天皇 | あり | 敏達天皇 | 皇族。欽明天皇の皇子。推古天皇とは父を同じくする異母兄妹 | 敏達天皇崩御後の未亡人 |
| 皇極天皇/斉明天皇 | あり | 高向王、のち舒明天皇 | 高向王=皇族、用明天皇の孫。舒明天皇=皇族、押坂彦人大兄皇子の子 | 舒明天皇崩御後の未亡人 |
| 持統天皇 | あり | 天武天皇 | 皇族。舒明天皇・皇極天皇の皇子。持統天皇の父・天智天皇の弟 | 天武天皇崩御後の未亡人 |
| 元明天皇 | あり | 草壁皇子 | 皇族。天武天皇・持統天皇の皇子。皇太子 | 草壁皇子薨去後の未亡人 |
| 元正天皇 | なし | ― | ― | 生涯未婚 |
| 孝謙天皇/称徳天皇 | なし | ― | ― | 生涯未婚 |
| 明正天皇 | なし | ― | ― | 生涯未婚 |
| 後桜町天皇 | なし | ― | ― | 生涯未婚 |
元明天皇までの女性天皇には夫がいましたが、その夫はいずれも男系です。
また、女性天皇が即位したのはいずれも夫の死後のことであり、在位中に夫を持った例はありません。
そして、元正天皇以降の4名は全員が生涯未婚でした。
現代では人権・人道の観点から、女性天皇を認めた場合に「生涯未婚」「子を持つことを禁止する」といった前近代的な運用は不可能です。
また、仮に女性天皇の子にも皇位継承資格を認めるとなると、その夫は男系であることを「資格」として求められるため、現代の結婚における価値観とは大いに衝突し、これも受け入れられないでしょう。
これが、現代では男系の女性天皇も認めることができない理由です。
まとめ 安易なジェンダー論は126代の積み重ねを危うくする
池上氏の記事は、一般向けに平易に説明しようとした結果、「男系」「女系」の説明がかなり雑になっており、かえって誤解を招く内容になっています(男系についてはそもそも解説していない)。
また、男系男子継承を支持する人たちを「男性優位の意識を持った人たち」と巨大な主語で一括りにしている点は偏見があるように思います。
池上氏がどのような意図で言った言葉なのかは計りかねますが、ジェンダー論で「男性対女性」という構図にすり替えてしまえば単純であり、一般層にも分かりやすいのでしょう。
しかし、それはただ誤解を招くだけであり、正しい認識から遠ざけるものです。
初代神武天皇から126代にわたって続いてきた皇位継承を、「男女平等」という現代的な価値観だけで決めてしまって本当に良いのでしょうか。


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