令和8年(2026)6月11日、宮内庁の黒田武一郎長官が前日10日にまとめられた、皇室典範改正に関する「立法府の総意」を天皇陛下に報告したことが報じられました。
⭐️参考 「国民の理解得られるものに」陛下、皇族数確保の議論巡りご言及 外国ご訪問前の会見で(産経新聞・2026/6/11報道)
天皇陛下のご発言「国民の理解が得られるものとなることを望む」
報道によると、宮内庁長官は、国会や政府で進められている皇族数確保策の2案、すなわち
①内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持する案
②旧11宮家の男系男子を養子に迎える案
を、衆参両院の正副議長がいずれも「了」とし「立法府の総意」としてまとめられたことを天皇陛下に報告しました。
なお、陛下は外国ご訪問前の記者会見において「制度に関わる事項については私から言及することは控えたいと思いますが、皇室の在り方や活動の基本は国民の幸福を常に願い、国民と苦楽を共にすることだと考えており」とし、続けて以下のように仰りました。
国民の皆さんの理解が得られるものとなることを望んでおります。
国民の理解とは?
今回の天皇陛下の「国民の皆さんの理解」とは、どういうものなのでしょうか。
どうなれば、「国民の理解」を得たことになるのでしょうか。
今回はこれについて考えていきたいと思います。
「立法府の総意」がまとめられたこと自体が「国民の理解」なのか
国会議員は制度上、選挙により国民の信託を得てその立場についている建前から考えると、その総意であるならば、これは「国民の理解」が得られたものと考えることはできそうです。
ですが結論から言うと、それだけで直ちに“国民の理解”そのものになるわけではないと思います。
ここでいう「国民の理解」とは、国会の制度によりまとめられた「立法府の総意」とは別の方向にあるもので、ひとつは「前提となる知識としての理解」
もうひとつは「社会的な意味での納得・理解」のことであろうと思います。
国民は皇室のことをほとんど何も知らない
まず国民の「前提となる知識としての理解」です。
これがなければ賛成も反対も本来意思表示ができないはずです。
女系天皇の意味も知らない、旧宮家はどこまで認知されているのか
令和元年(2019)、NHKにより行われた「皇室に関する意識調査」(皇室観「関心」「親しみ」「身近」が7割|nippon.com)によると、
たとえば「女系天皇の意味を知っているか」については、
「よく知っている」6%、
「ある程度知っている」35%、
「あまり知らない」37%、
「全く知らない」15%。
つまり「知っている」42%、「知らない」52%です。
(調査対象は全国の男女2790人、回答数1539人)
国民の過半数は女系天皇の意味を理解していません。
さらに、養子案にからむ「旧宮家」について言えば、果たして国民がどの程度知っているでしょうか。これを直接測る調査は見られませんが、女系天皇の意味さえ知らない人が過半数に上ることを踏まえれば、より専門的な旧宮家の歴史や男系男子の範囲について、国民一般の理解が十分に形成されているとは言い難いでしょう。そもそも「宮家」すら何か分からない人も相当数いると思われます。
この前提理解がなければ、女性皇族の身分保持案も旧宮家養子案も「国民の理解」は得られないでしょう。
皇室問題は意見が割れやすい
次は、「社会的な意味での納得・理解」についてです。
天皇陛下のご発言「国民の皆さんの理解が得られるものとなることを望んでおります。」これを満たすためには、国民の「知識としての理解」が進んだ次の段階の、「社会的な意味での納得」が得られることが必要になってきます。
ただし、皇室問題は国の根幹に関わる問題でありながら、個人個人の価値観、歴史観、国家観により意見が割れやすい話題でもあります。よって国民全員、またはほとんどが理解・納得するような皇室典範改正は極めて難しいと言わざるを得ないでしょう。
理解・納得が得られるかは結局のところ「やってみなければ分からない」
例えば、
女性皇族の身分保持案は、実際に結婚後も皇族として残られる方が出るのか、生活実態や公務のあり方がどうなるのか、配偶者・子の扱いが社会にどう受け止められるのか、事前には全てを読み切れません。
旧宮家養子案も同じです。とりまとめでは、対象を旧11宮家の男系男子の子孫としつつ、本人意思、年齢、養親の範囲、手続、そして養子となって皇族となられた方は皇位継承資格を持たないことなど、慎重な制度設計を求めています。さらに、必要があると認めるときは一定年数ごとに見直すともされています。
いずれの案も、今を生きている我々にとっては全て未経験のことです。そうであれば、結局のところは「やってみなければ分からない」部分が多いです。
ここが重要で、今回の「立法府の総意」とりまとめ自体も、実は「やってみなければ分からない」ことをある程度認めています。
というのも、改正皇室典範の施行後の状況を踏まえ、必要があれば所要の措置を講じる検討条項を附則に設けることが適切だとしているからです。
従って、社会的な意味での納得を意味する「国民の理解」とは、決める前に存在するものというより、決め方・説明・運用・見直しの積み重ねによって、後から形成されていくものではないでしょうか。
まとめ 「国民の理解」は、賛同の前にまず説明から始まる
天皇陛下が述べられた「国民の皆さんの理解」とは、単に国民の多数が賛成することを意味するものではないでしょう。
皇室典範の改正は、国会の議決によって行われるものです。その意味で、「立法府の総意」がまとめられたことは重い意味を持ちます。
しかし、それだけで直ちに国民の理解が得られたことにはなりません。
多くの国民は、女性天皇と女系天皇の違い、旧宮家の歴史、旧宮家男系男子の養子案、女性皇族の婚姻後の身分保持案について、十分に理解しているとは言い難いのが現状です。
だからこそ政府には、制度の目的、内容、限界、残された課題について、国民が賛否を判断できるよう丁寧に説明する責任があります。
同時に、国民の側にも、感情的な印象だけで判断するのではなく、まず制度の中身を知ろうとする姿勢が求められるでしょう。
「立法府の総意」は、国民の理解の完成ではありません。
これは、国民に対して制度の内容を説明し、理解を広げていくための出発点であると言うべきではないでしょうか。



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