【愛子天皇】天皇陛下のお言葉を自説に利用する危うさ―「国民の理解」発言うけて【皇室典範改正論議】

天皇陛下

令和8年(2026)6月10日、皇族数確保策をめぐる「立法府の総意」がまとめられました。

その翌日、天皇皇后両陛下のオランダ・ベルギー公式訪問を前に開かれた記者会見において、「立法府の総意」を受けて以下のようなお言葉を仰せになりました。

6月11日、天皇陛下のお言葉

制度に関わる事項については、私から言及することは控えたいと思いますが、皇室の在り方や活動の基本は、国民の幸福を常に願い、国民と苦楽を共にすることだと考えており、こうした皇族数の確保の在り方についての議論においても、国民の皆さんの理解が得られるものとなることを望んでおります。

オランダ及びベルギーご訪問に際し(令和8年、宮内庁)

陛下のお言葉を「愛子天皇」実現に利用する記事が公開される

「天皇陛下がこれほど率直なおことばを述べるのは異例」皇室研究家が読み取った”国民の理解”発言の真意
天皇陛下は6月11日、オランダとベルギーの公式訪問を前に記者会見し、国会で議論されている皇族数確保案について言及された。皇室研究家で神道学者の高森明勅さんは「憲法上の制約もある中で、陛下がこのような“異例のご発言”をわざわざなさったのは、現…

6月19日に「皇室研究者」また「神道学者」の肩書きを有す高森明勅氏の記事が公開されました。
高森氏の大まかな論理展開は次の通り。

①天皇陛下が「国民の理解が得られるものとなることを望む」とおっしゃった。
②高森氏は「これは養子案への疑義だ」と解釈する。
③その根拠として世論調査(養子案の賛否拮抗)を持ち出す。
④上皇陛下も女性・女系を容認していると推測する。
⑤結論として「愛子天皇への道しかない」と主張する


前提:天皇陛下は制度への言及を明確に控えられた

天皇陛下は「制度については言及を控える」と仰られました。このご発言は、憲法上の立場から見れば一貫したメッセージです。

つまり、これに続く「国民の理解が得られるものとなることを望む」という部分は、特定の制度の優劣を語ったものではないということになります。

陛下のお言葉を政治主張に利用していないか

ところが、高森氏は最終的に、陛下のお言葉を援用し、「愛子天皇」への道こそが国民の理解を得る道であるかのように論じています。

これは、陛下のお言葉を自身の政治的主張を補強するために利用しており、非常に問題があると思います。


高森氏の主張の問題点や飛躍

「国民の理解」を世論調査の賛否に置き換えている

世論調査の数字

高森氏は、養子案について各社調査で賛成が5割に届かず、反対が4割前後あることを挙げ、「国民の理解が得られているとはいえない」としています。
つまり、「国民の理解=世論調査の賛成率=賛成が過半数に届かないなら理解なし」という論理です。

しかしこれは、数字の見方の問題です。高森氏の言うところの、

賛成は5割に届かない
反対は4割前後ある
だから国民の理解は得られていない

この数字は逆からも読めます。

反対も5割に届いていない
多くの調査で賛成が反対を上回っている
だから少なくとも「国民が拒否している」とは言えない

とも言えるわけです。

賛成率だけで「国民の理解」は測れない

そもそも養子案については多くの前提知識が求められます。

たとえば「そもそも旧宮家とは何か」、「なぜ戦後に皇籍離脱したのか」、「歴史的に皇室とどのように関わってきたのか」、「男系男子とは何を意味するのか」、「養子となった本人は皇位継承資格を持つのか、持たないのか」などが挙げられます。

こういった前提理解を無視したまま、賛否だけを問う世論調査に「国民の理解」を導き出すことはかなり無理があると言わざるを得ません。

本来なら、世論調査から言えるのはせいぜい、「旧宮家養子案については、賛否が割れており、今後さらに丁寧な説明が必要である」くらいまででしょう。

伝聞と推論に依拠する「上皇陛下のご意向」

高森氏は、上皇陛下(当時は天皇陛下)が平成21年(2009)当時、養子案を「上皇陛下が拒絶しておられた」としています。しかし、氏の主張は「推論」と「推論の上塗り」が混ざっていて、かなり分かりにくいため、要約すると以下のようになります。

①竹田恒泰氏の本によれば、麻生内閣で養子案が進みかけたという。
②総理の内奏によると、上皇陛下は養子案に不快感を示されたので、見送られることとなったらしい。
③その際、漆間官房副長官が「陛下のご意思を確認しなければ進められない」と言ったらしい。
④ 一方で、上皇陛下は「内奏で皇位継承の話題は出ていない」と答えられたらしい。
⑤しかし養子案は皇位継承とは切り離されているのだから、「皇位継承の話題が出ていない」ことは「養子案への不快感がなかった」ことの証明にはならない。
⑥漆間氏が上皇陛下の真意をねじ曲げたとは考えにくい。
⑦よって、上皇陛下が養子案に不快感を示された可能性は残る。

この話の根本になっている、「麻生総理の内奏」に養子案の話があったかどうかですら事実確認が取れず、伝聞に伝聞を重ね、そこからさらに推論を重ねているため、上皇陛下が養子案を拒絶されたとする根拠としては極めて薄く、あやふやであると言わざるを得ません。

そもそも宮内庁によると「内奏」は「天皇陛下と総理二人だけの行事であり,他に同席する者はなく,その内容も室内の様子も外からは分かりません」としています。よって、内奏に養子案の話があったかどうかは上皇陛下と麻生総理しか知り得ない内容であり、特定は困難です。

⭐️参考 天皇陛下に対する総理内奏に関する記事について(宮内庁)

議論の前提が変わっていることを無視していないか

続いて高森氏は見出しにおいて、上皇陛下は「『女系』を容認されていた」と主張しています。

しかしそれは、元宮内庁長官や元侍従長が、安定的皇位継承の観点から女性・女系天皇の可能性に言及したということであって、上皇陛下ご自身の意思表示ではありません。

しかも、この話は悠仁親王殿下がお生まれになる前の平成17年(2005)のことです。

仮に当時、女系天皇容認の方針が宮中で一定程度受け止められていたとしても、男系男子が新たに誕生された後の状況を無視し、当時の議論をそのまま現在の「愛子天皇」論に接続することは無理です。

平成17年会見でも、上皇陛下は制度への回答を控えられている

続いて高森氏は、上皇陛下のご意思について、以下のように主張しています。
記事から引用します。

上皇陛下が(男系女系にかかわりなく)「天皇及び皇族は、国民と苦楽を共にすることに努め、国民の幸せを願いつつ務めを果たしていく」という在り方こそが「皇室の伝統」である、と肯定的に回答されていた事実がある。

これは平成17年の天皇誕生日会見において、記者が「女性・女系が実現すれば皇室の伝統の一大転換となります」と質問したことに対する陛下のお答えを引用してきたものです。

つまり高森氏は、この陛下のお答えをもって「上皇陛下は女性・女系を容認している」と解釈しています。
しかし、宮内庁によると、この時の上皇陛下のお言葉は以下になっています。

皇室の中で女性が果たしてきた役割については私は有形無形に大きなものがあったのではないかと思いますが,皇室典範との関係で皇室の伝統とその将来についてという質問に関しては,回答を控えようと思います。

私の皇室に対する考え方は,天皇及び皇族は,国民と苦楽を共にすることに努め,国民の幸せを願いつつ務めを果たしていくことが,皇室の在り方として望ましいということであり,またこの在り方が皇室の伝統ではないかと考えているということです。

天皇陛下お誕生日に際し(平成17年、宮内庁)

ここでも前提として上皇陛下は「皇室典範との関係」つまり制度については回答を控えられています。その上で、陛下の「皇室に対する考え方」と「皇室の伝統」についてお話しされています。

よって、このお言葉をもって陛下が女系を容認とされたと主張することは無理でしょう。

慎重なお言葉を「愛子天皇」論へ接続する飛躍

以上見てきたように、高森氏の話の展開はほとんど伝聞と推測に依拠しています。
しかし、最大の問題は、天皇陛下と上皇陛下の慎重なお言葉や、伝聞による証言を、最終的に「愛子天皇」論の根拠として束ねていることです。

とりわけ、今上陛下の「国民の理解」発言を養子案への疑義とし、上皇陛下の「国民と苦楽を共にする」というお言葉を女系容認の根拠とし、最終的に「愛子天皇」論へ接続するのは、論理の飛躍があまりに大きいと思います。


まとめ:皇室を尊重するなら、お言葉を政治利用してはならない

お言葉を解釈する行為それ自体は否定しません。しかし、お言葉が語っていないことを語ったかのように提示し、自らの政治的主張の権威づけに使うことは、むしろ天皇の憲法上の立場を損なう行為ではないでしょうか。

天皇陛下は、皇族数確保をめぐる制度論について「私から言及することは控えたい」と明確に述べられました。にもかかわらず、そのお言葉を「養子案への疑義」と読み替え、さらに「愛子天皇」論へ接続することは、陛下のお言葉を自説の補強材料として利用するものではないでしょうか。

上皇陛下のお言葉やご意向とされるものについても同じです。制度論への回答を控えられたお言葉を、特定の皇位継承案への賛否として扱うことは避けるべきです。

国民の理解」とは、皇室制度の歴史、男系継承の意味、旧宮家の位置づけ、女性天皇と女系天皇の違いなど、前提知識を共有したうえで、国民の間に理解と納得を広げていくことが本来の意味ではないでしょうか。

皇室を本当に尊重するのであれば、陛下のお言葉を自説の道具にしてはならないはずです。

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