天皇・皇族の「お気持ち」断定―高森明勅氏の記事には問題がある

天皇
やっぱり「愛子天皇」しかない…皇室研究家「問題だらけの旧宮家養子縁組が皇室にもたらす最悪シナリオ」(プレジデントオンライン) – Yahoo!ニュース
7月17日に改正皇室典範が成立した。神道学者で皇室研究家の高森明勅さんは「今回の皇室典範の改正は、皇室が現在直面している危機をさらに深める結果になるか、皇室の聖域性を危うくし、これまでと“異質な存在

今回はこちらの記事について感想を書いていきたいと思います。
プレジデントオンライン、7/22、神道学者・皇室研究家という肩書きを持つ高森明勅氏の記事です。

この記事の要点を簡潔に並べると、
1 天皇陛下のお言葉「国民の理解」を政治的な意思表示と解釈する
2 政府はゴリ押しに近い形で改正皇室典範を成立させたと批判
3 養子縁組は対象者が現れないし、もし縁組が実現したら「最悪」と断じる
4 旧宮家の方々の過去を批判する
5 現皇族側に養親として適格な方がいないとして養子制度そのものに難色を示す
6 天皇陛下と上皇陛下は以前から養子案にネガティブだったとする
7 やはり愛子天皇しかないと結論づける

非常に長い記事で、指摘したい点が多いのですが、逐一の反論は煩雑になることを避けられないため、以下に掲げる最も重大な3つの論点に絞り、なるべく簡潔にまとめていきます。

1 天皇陛下の「国民の理解」のお言葉を制度論と結びつけて解釈している。
2 「天皇陛下と上皇陛下が養子案に対しネガティブ」と、確認済みの事実であるかのように断定している。
3 秋篠宮皇嗣殿下と悠仁親王殿下が「即位を望まれていない」と断定している。


① 天皇陛下の「国民の理解」のお言葉を制度論と結びつけて解釈

陛下のお言葉は異例ではない

令和8年(2026)6月11日、天皇陛下はオランダ・ベルギーご訪問に出発される前の記者会見において、皇族数確保議論についてどのように受け止めておられるかと記者から問われ、以下のように仰いました。

皇室の活動は、このような国際親善のほかにも、地方への訪問や被災地のお見舞いなどを通して、国民の皆さんに寄り添い、あるいは多くの国民の皆さんと交流することを始め、多岐にわたっております。こうした皇室の活動を、将来にわたり安定的に続けていくための皇族数の確保の在り方については、現在、議論されているものと承知しています。制度に関わる事項については、私から言及することは控えたいと思いますが、皇室の在り方や活動の基本は、国民の幸福を常に願い、国民と苦楽を共にすることだと考えており、こうした皇族数の確保の在り方についての議論においても、国民の皆さんの理解が得られるものとなることを望んでおります。

オランダ及びベルギーご訪問に際し(令和8年)(宮内庁)

高森氏は、これを「異例のおことば」と取り上げ、これまで陛下は政治のプロセスに関与しかねないご発言は控えてこられたにも関わらず、「今回は少し様子が違った」という感想を述べています。

しかし、陛下は「制度に関わる事項については、私から言及することは控えたいと思います」と前置きしている以上、従来通り「政治のプロセス」に関与したご発言はなさっておられず、異例であるとは言えません。

陛下は深い不安や危惧を抱いておられたと断定

高森氏は、この陛下のご発言をもって、次のように書いています。

陛下は皇室典範の改正をめぐる政府・国会の動きに対して、深い不安や危惧を抱いておられた。だからこそ、当事者でいらっしゃる皇室の長として、あえて踏み込まれたと受け取るほかないだろう。

 だが残念ながら、陛下が危惧された通り、高市政権の無理押しによって「国民の理解」からかけ離れた結果になってしまった。

やっぱり「愛子天皇」しかない…皇室研究家「問題だらけの旧宮家養子縁組が皇室にもたらす最悪シナリオ」

「深い不安や危惧を抱いておられた」、「陛下が危惧された通り」と断定していますが、陛下のお言葉からは不安や危惧を思わせる内容は公開の文言からは見当たりません。

陛下のお言葉を文言通りに受け取れば、皇室の在り方や活動の基本は「国民の幸福を常に願い、国民と苦楽を共にすること」であり、「皇族数確保の在り方の議論」もその同じ線の上にあるものです。
その上で「国民の皆さんの理解が得られることを望む」という構成になっています。

これは皇室の在り方や活動の基本に則った、あくまで普遍的なお言葉であるといえ、少なくともお言葉の文言からは「深い不安や危惧」を感じることはできません。まして、「踏み込んだ発言」と言えるものではないと思います。

高森氏は、陛下のお言葉を自身の主張の権威付けに利用することを控えるべきだと思います。


② 天皇・上皇両陛下が養子案にネガティブと確認済みの事実であるかのように断定

高森氏は、養子として適格な旧宮家の人物がいないことに加え、養親側、つまり現皇族の側にも「リアリティの点で疑問符がつく」としています。そして、養親候補の宮家を個別に批判したあとに次のように述べました。

そもそも、養子案に対して天皇陛下も上皇陛下もネガティブな捉え方をされていることが、すでに知られている(「文藝春秋」7月号、「読売新聞」7月18日付ほか)。

天皇陛下と上皇陛下が養子案に対してネガティブであるとし、すでにそれが知られていると言っています。そのソースとして、

・『文藝春秋』7月号
・読売新聞7月18日付の記事

これらを挙げています。

『文藝春秋』7月号

『文藝春秋』2026年7月号の記事は、「深層レポート 天皇が漏らされた“ご懸念”」というものです。当該号によると、匿名の「宮内庁関係者」が次のように証言しているといいます。

「天皇陛下が令和3年の有識者会議報告について西村泰彦宮内庁長官から説明を受けた際、陛下は旧皇族の養子案についてのみ「国民の理解が得られるのか」と御懸念を漏らされたという

これはつまり、
宮内庁長官の説明を受けた天皇陛下の「御懸念」を何らかの方法で知った匿名の宮内庁関係者が、文藝春秋の記者に証言したということです。

読売新聞7月18日付の記事

『読売新聞』の原記事は、全文を直接確認できませんでした。ただし、高森氏自身が7月19日の公式ブログで、読売の記事をかなり詳しく引用しています。

複数の宮内庁関係者によると、『21年からの議論で突如、男系維持の主張に偏った養子案が有力な方策となり、陛下は違和感を覚えられた』という

複数の宮内庁関係者」が、陛下は養子案に「違和感を覚えられた」と説明しています。つまり「違和感」という言葉も、少なくとも引用文上は陛下御自身の直接発言ではなく、関係者による内心の説明です。


上皇陛下については、同読売記事から以下を引用しています。

改正作業の元担当者によると、上皇さまは、側室制度なしに男系の維持は困難という、生物学的な見解も理解された。『悠仁さまが結婚後、男児を得られるかわからないのに、(女性·女系天皇を容認する)改正の議論がなかったことになり、困惑されていると聞いた』」

これは文脈から、平成17年(2005)の小泉内閣における皇室典範改正議論に関わるもので「改正作業の元担当者」は、おそらく当時の政府・宮内庁などで女性・女系天皇を容認する皇室典範改正作業に関与した人物を指すのでしょうがそれ以外の一切は不明です。

この引用を読む以上、明らかに上皇陛下の直接証言ではありません。
そもそも「改正作業の元担当者」が誰から「上皇陛下の困惑」を聞いたのかが不明です。

よって、この話の伝聞経路は次のようになります。

誰か → 改正作業の元担当者 → 読売新聞記者 → 高森氏

全て匿名証言

以上が、高森氏が「養子案に対して天皇陛下も上皇陛下もネガティブな捉え方をされている」という主張の根拠とするものです。

これらは見てきたように、全て匿名の人物からの伝聞です。
もちろん、これらの伝聞による事実が「一切なかった」、「全て虚偽である」などと断じることはできません。
しかし、高森氏は両陛下が「ネガティブな捉え方をされている」とし、これらが「すでに知られている」と公然の事実であるかのように断定するのは、明らかに一線を超えています。

このように断定するのであれば、高森氏には「実際に天皇・上皇両陛下がそのように捉えている」事実を証明する義務があるのではないでしょうか。


③ 秋篠宮皇嗣殿下と悠仁親王殿下が「即位を望まれていない」と断定している

これまで2つ問題点を挙げてきましたが、この③が最も重大で「危険」であると思います。
高森氏は結論の「愛子天皇しかない」を導くために、明確な情報源を示さないまま秋篠宮皇嗣殿下と悠仁親王殿下が「即位を望まれていない」と断定しています。

 消えたのは、「今上陛下から秋篠宮皇嗣殿下、次世代の悠仁親王殿下という皇位継承の流れをゆるがせにしてはならない」という、(即位を望まれていない秋篠宮殿下や悠仁殿下にとっても迷惑な)「愛子天皇」の可能性を排除するための決めゼリフだ。

やっぱり「愛子天皇」しかない…皇室研究家「問題だらけの旧宮家養子縁組が皇室にもたらす最悪シナリオ」 第8頁より

天皇・上皇両陛下の件については、「元宮内庁関係者」などといった、伝聞でありながらも一応の情報源を掲げています。しかしこの件については、少なくとも記事中で一切の根拠も掲げていません
なぜ皇嗣殿下と悠仁殿下が即位を望まれていないのかの理由も一切書かれていません

これは両殿下の「重大な御内心」に直結する問題であり、情報源を明かさないまま断定してよい内容とは到底言えません。

高森氏が「即位を望まれていない」と主張する根拠

皇嗣殿下の場合は

高森氏は自身の公式サイトの令和4年3月27日記事で「秋篠宮殿下は何故「皇太子」を辞退され、宮号を維持されたか?」と題し、次の御厨貴氏(安倍内閣の「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」の座長代理を務めた政治学者)の証言を引いています。

「上皇さまの退位に関する議論が開始された当初は、秋篠宮さまが『皇太子』と呼ばれる可能性もあった。だが、途中で政府高官から、秋篠宮さま自身が『皇太子の称号を望んでおらず、秋篠宮家の名前も残したい意向だ』という趣旨の説明があり、皇位継承順位第1位の皇族であることを示す『皇嗣』という称号に落ち着いた。秋篠宮さまの真意は今もわからない」と。
秋篠宮殿下は何故「皇太子」を辞退され、宮号を維持されたか?(高森明勅公式サイト)

おそらく高森氏は、この御厨氏の証言を「皇嗣殿下が即位を望まれていない」とする根拠としているのであろうと思います。

しかし、御厨氏は「秋篠宮さまの真意は今もわからない」としています。
つまり、皇嗣殿下が即位を望まれていないと断定できる材料はないということになります。

悠仁親王殿下の場合は

悠仁親王殿下が「即位を望まれていない」とする根拠については、記事外においても確認することができませんでした。もちろん、殿下ご自身が「即位を望まない」と公式に発言されたことも確認できません。

これについては、高森氏が「今上陛下から秋篠宮皇嗣殿下、次世代の悠仁親王殿下という皇位継承の流れをゆるがせにしてはならない」という「決めセリフ」を否定するために放たれた無根拠な放言であると言えます。

以上のことから、高森氏は「(即位を望まれていない秋篠宮殿下や悠仁殿下にとっても迷惑な)」という括弧書きについては、正確な根拠を示せない限り撤回すべきと考えます。


皇嗣殿下は「皇嗣の務めを果たす」と仰っている

そもそもの話ではありますが、皇位継承は制度として決められており、皇嗣本人の個人的な意思である「望む/望まない」で左右される性質のものではありません。

もちろん、皇室典範には皇位継承順位の変更も制度として定められています(第3条)。皇嗣の自由意志をどこまで皇位継承に及ぼすべきかは議論の余地はあるでしょう。

しかし、それは制度論であり、皇嗣殿下が個人として、皇位継承を「望んでおられるのか/望んでおられないのか」というのは全く別の問題です。

皇嗣殿下が公式に示されたご意志として明らかにされているのは、令和2年「立皇嗣の礼」で行われた「立皇嗣宣明の儀」でのご発言です。

立皇嗣宣明の儀をあげていただき,誠に畏れ多いことでございます。皇嗣としての責務に深く思いを致し,務めを果たしてまいりたく存じます。

立皇嗣宣明の儀の秋篠宮皇嗣殿下のおことば(令和2年11月8日)(宮内庁)

もちろん、これは「皇嗣」という公の責務へのご決意であり、殿下個人のご内心まで確定させるものではありません。

しかし、ご真意が分からない以上は、公に示されたご決意を尊重することが至極真っ当な在り方なのではないでしょうか。

高森氏が証明しなければならないこと

そして、高森氏が「両殿下が即位を望まれていない」ことを愛子天皇実現を正当化させる根拠とするのであれば、同時に「愛子内親王殿下が即位を望まれている」ことを証明しなければなりません。

そうでなければ、「即位を望む」という意思を明らかにされていない愛子内親王殿下に対し、即位を押し付けていることとなってしまいます。これは愛子内親王殿下にとっても「迷惑」なのではないでしょうか。

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