この記事でわかること3点
1 養子本人には皇位継承資格がなく、養子縁組後に生まれた子孫には継承資格が認められること
2 養子の子孫の皇位継承資格は、国会の全体会議でも正式な論点として取り上げられており、「全く議論を経ていない」とは言えないこと
3 旧宮家の男系男子に対象を限定することは、皇位の世襲を維持するための合理的区別と考えられ、直ちに憲法違反とは言えないこと
毎日新聞 2026/7/17記事。
皇室典範改正について、憲法を専門とする、九州大学名誉教授・横田耕一氏の意見が書かれているようです。ただし、有料記事のため全文は読めません。
そのため今回は、この記事の読むことができる部分についてのみ反論を書いていきます。

毎日新聞記事の論点は3つ
記事冒頭では、今回の改正皇室典範のうち、「旧宮家の男系男子を皇族の養子に迎える案」について批判しています。具体的には、
① 皇族数確保に絞った議論として「立法府の総意」を示したのに、政府は実質的に男系継承を維持する「皇位継承策」に手を付けた。これには政治的な思惑があることが明白である。
② これは全く議論を経ておらず、政治的な思惑があることが明白である
とのことです。(クリックすると各反論部分に移動します)
反論
① 養子の子孫が皇位継承資格を有するのは当然の帰結
1. 養子は皇位継承資格を持たない
旧宮家養子案は、あくまでも人数の先細りを防ぐための「皇族数確保策」です。このことは、「養子自身は皇位継承資格を持たない」ことから明らかです。
皇室典範等の一部を改正する法律案
皇室典範等の一部を改正する法律案(衆議院)
第三十八条第四項 養子皇族男子(前項の規定により皇族となつた皇族男子をいう。以下この条において同じ。)については、第二条(皇位継承資格について定める)の規定は、適用しない。
青文字は筆者注記
2. 養子の子孫は皇位継承資格を持つ
そして、法律案では、養子皇族の子が男子であれば、その子孫については皇位継承資格を有するとしています。
皇室典範等の一部を改正する法律案
第三十八条第六項 養子皇族男子の子孫に係る第二条及び第六条(皇族の身位を定める)の規定の適用については、実方の系統によるものとする。
これはつまり、養子の子孫たる皇族男子は、その実方、つまり養親ではなく実親である旧宮家の系統によって皇位継承資格を有するということです。
この点が「皇位継承策」に触れているのだとして一部から不満が噴出しているものとみられますが、現行の皇室典範の規定に照らして、養子皇族の子が皇位継承資格を有するのは当然の帰結であると言えます。
皇室典範第一条 皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。
確かに、立法府の総意には養子の子孫の皇位継承資格については明記されていません。
しかし、養子皇族男子の子孫の男子は、「皇統に属する男系の男子」という現行皇室典範第1条の要件を全て満たしているため、現在の皇室典範の規定をそのまま適用し、皇位継承資格を有することとなるのが自然であると言えます。
言い換えれば、養子の子孫男子は生まれながらの皇族男子であるのだから、わざわざ例外を設けてまで皇位継承資格を否定する理由がないとも言えます。
3. 皇位継承順位はどうなる?
養子皇族は、その実系(実親の系統)により皇族の身分を取得することとなります(前掲「皇室典範改正法案」)。
よって、仮に子孫男子を現在の皇位継承順位に加えるとしたら以下のようになると見られます。
第1位 秋篠宮皇嗣殿下(文仁親王殿下)
第2位 悠仁親王殿下
第3位 常陸宮正仁親王殿下
第4位 養子となった皇族の子孫A
第5位 養子となった皇族の子孫B
以下同様
皇室典範第二条 皇位は、左の順序により、皇族に、これを伝える。
一 皇長子
二 皇長孫
三 その他の皇長子の子孫
四 皇次子及びその子孫
五 その他の皇子孫
六 皇兄弟及びその子孫
七 皇伯叔父及びその子孫
② 前項各号の皇族がないときは、皇位は、それ以上で、最近親の系統の皇族に、これを伝える。
皇室典範第2条は皇位継承順位を定めており、これによると、養子子孫男子は第2項の「前項各号の皇族がないとき」にあたります。
よって、現在の皇位継承順位を変動させていないため、「悠仁親王殿下までの継承をゆるがせにしてはならない」という前提にも触れていません。
以上、政府は今回の皇室典範改正について、従来の皇位継承方法そのものに変更を加えておらず、
さらに、
生まれながらの皇族である養子子孫の男子が継承資格を有するのは現行皇室典範から導かれる当然の帰結であるため「『皇位継承策』に手を付けた」という批判は適切とは言えません。
② 「全く議論を経ていない」は事実と合わない
次に、「全く議論を経ておらず、政治的な思惑があることが明白である」という批判ですが、
令和7年(2025)1月31日に衆参正副議長の下で開かれた全体会議の配付資料には、養子案の論点として明確に、自民党などの意見として、
「縁組後に生まれた男子は皇位継承資格を有するものとすることが適切」と記載されています。
⭐️参考 「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議に基づく政府における検討結果」に対する各党・各会派の意見の要点(令和7年1月31日、衆議院、PDF)
同じ内容は、同年3月10日の「各党・各会派の意見の要点」にも掲載されています。そこでは、自民党や国民民主党が子の継承資格を認める立場を示す一方、立憲民主党は「長期的に検討すべき課題」としており、賛否が明確に整理されています。つまり、論点として提示され、各党の意見まで公文書に掲載されていたのです。
⭐️参考 「皇族数確保のための第2案『皇統に属する男系男子を養子に迎えること』」に対する各党・各会派の意見の要点(令和7年3月10日、参議院、PDF)
したがって、「全く議論を経ておらず」という表現は正しいとは言えないため、「政府の思惑」があったという表現も適切ではないでしょう。
③ 憲法はそもそも皇位の血統原理を認めている
最後に「旧宮家養子案には憲法上の問題がある」との批判ですが、これは具体的には憲法14条(法の下の平等)に定める「門地差別の禁止」、「華族その他の貴族制度の禁止」に触れるものであるとの批判でしょう。
しかし、憲法は第2条で「皇位は、世襲」としており、この世襲は「天皇の血統に属するものが皇位を継承するもの」と解釈されています。つまり、憲法は正面から皇位の血統による分別を認めていることになります。
憲法第二条 皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。
第2条の制度を維持・存続させていくためには、皇統に属する男系の男子は必要不可欠な存在であることになります。そのため、戦後間もなく皇籍を離脱した旧宮家の男系男子の男系子孫に限って、現皇族の養子として皇族身分を得ることは、第2条との関係から見て「合理的区別」であり、直ちに憲法違反とは言えません。
このことについては以下の記事で詳しく取り上げています。

まとめ
旧宮家養子案は、養子本人に皇位継承資格を与える制度ではなく、まずは皇族数を確保するための方策です。一方、養子縁組後に生まれた男系男子の子孫が皇位継承資格を有することは、現行の皇室典範の原則から導かれる自然な帰結といえます。
また、この問題は国会で「全く議論されていなかった」わけではありません。養子の子の皇位継承資格については、各党・各会派の意見が公文書に整理され、実際に議論の対象となっていました。
旧宮家の男系男子に対象を限定することについては、皇位の世襲制度を維持するという目的との関係から、一定の合理性を持つ区別と考えられます。
以上のことから、旧宮家養子案を「議論を経ない政治的な皇位継承策」や「明白な憲法違反」と断定する批判は説得力があるとはいえないでしょう。


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